二百年後の昔話 第1話

昔々、都会からすこし離れたある村に鹿が一匹やってきました。村人は、まだ若くそれなりに毛並みのよさそうなその鹿を後で皮を剥いで毛皮にしてもいいし、食べてしまってもいい、せっかくだからと村の囲いの中で飼うことにしました。
 それからしばらくたって、都会からきた旅人や小旅行から帰ってきた村人が口ぐちに「この鹿が、ここから少し遠出した、村人は日ごろあまり立ち寄らない湖に映っている姿が、じつにきれいだった。きっとこの鹿と湖はよい関係なのかもしれないね」といいました。それを耳にした村人のうち4人がおもいおもいにその湖にむけて出発し、それからかなり時間がたって旅だった村人が既に帰ってきてしばらくしてから、あともう2人の村人が後を追いました。
 はじめについたのはAさん。湖の景色の美しさにすっかり満足して「毎週末はここで他の村人と鹿もつれてピクニックをしよう」ときめてうきうきと村に帰っていきました。ほどなくして次に現れたのはBさん。湖の大きさと水の豊富さに感心して、「これは天然のダムのようなものだから、ここから村に水をひいて工業用水と農業用水に使おう」と思い、さっさと村に帰っていきました。3番目に到着したのはCさん。湖のまわりの温暖な気候と日差しをとても喜び、湖のまわりにてごろな土地があるのをみつけて、花畑を作ることにしました。4番目に立ち寄ったのはDさん。湖水の美しさとそのまろやかな味に着目し、『この水をペットボトルにつめて「鹿族のミネラルウォータ」とラベルを貼り村で売れば、いま村に流通している少し重たいZ社の水を駆逐できる』と思い、早速製品化して村にもっていきました。かなり遅れて出発した二人のうち、先に到着したのはEさん。Z社製の水を扱う彼は、くみ上げた水の品質を認めつつも、『「神聖な」この湖を村の水につかうのはふさわしくないと村人に触れまわった上で、村と湖をむすぶ道を全て封鎖して管理下におき、鹿もわが家で飼われるならよし、そうでなければ湖と反対の方向へ放つことにしよう』と一計を案じ、急いで村に帰りました。最後にやっと現れたのはFさん。おいしいという湖の水を手ですくって飲もうとしたところ、普段鏡をみる習慣のないのか、彼は水面に映った自分の醜い顔(彼はすくなくともそう思った)に驚き、「この湖はじつにけしからん。鹿だけきれいに映すとは。きっと鹿に買収されてきれいに映しているのだ」と思い、身につけていた毒をありったけ湖に注ぎ込んで颯爽と村に帰っていきました。
             〈中略1;村にて→Episode3〉
この村の人間の頻繁な往来と広がる様々な毒は湖の生態系に様々な影響を与えていきました。
             〈中略2;湖にて→Episode4〉
このように様々な動植物の懸命の努力により、湖は徐々に浄化されていきました。そして、湖はやがてもとのきれいな環境を取り戻し、以前にまして様々な動植物の棲む場所となりました。(つづく)