The dove 5.The surface and depth stratum 〜parallelism〜

ローマやミラノやパリといった大都会に比べればだいぶ静かな南ヨーロッパのこの街でも、中心部をなす広場に近づくにつれて、食料店や土産のお店が増えて、夏の暖かな気候を満喫しようとする北国からやってきた青白くて、幾分背の高い外国人の観光客や、地元の買い物客、路上に出て寸劇やバイオリンを演じる人、靴磨きをする人々がせわしなく入れ混じって活気のある光景をつくりだしていた。塔の時計はちょうど一五時を回ったところで、まだ南国の陽の光は高く、半円状の広場の敷石に反射してまばゆく辺りを包んでいた。彼の小脇に抱えられた鳩は、珍しいことでもあるのか頻りに周りを伺っていたが、これは鳩本来の習性なのかもしれなかった。ふと見ると、あるジェラートのお店の前に置かれたベンチの側で、同じ学校の朋輩だろうか、7人の男女が好みジェラートを片手に談笑していた。彼らは年恰好も、その服装もどこか似た雰囲気をしていてなんだかとても微笑ましかった。よく見ると彼らのうちの4人には、小さな鳩が傍らに寄り添っていて、そのうちの3羽は、鳩と鳩どうしで頬と頬をくっつけたり、嘴と嘴をあわせたり、翼を合せたりしたりして遊んでいて、お互いが鳩であることを確認しあっているようだった。残りの1羽は、恥しがり屋なのかまだ生まれて間もないのか、時々翼で自分の目を隠したりしながら、飛んだり跳ねたりして大学生と他の鳩の周りをずっと駆け回っている。けれど、人間も鳩もお互いを強く意識しているわけではどうやらないようで、年頃の男女の集まりにしても少し元気がよすぎるかと感じられることを別とすれば、端から見れば事実、この七人はこの店のフルーツたっぷりの甘いジェラートとはやりの会話を心から楽しんでいるようにしか見えなかった。彼は見慣れない風景に、思わず自分の鳩を眺めたが、鳩は鳩で気になることでもあるのか、短い首をシャンとのばし眼の中に碧色の燈を映して、集団の鳩たちを凝視していた。彼は鳩のその様子を見て、しばらくそっとしてあげることにして、仕方ないのでもう一度その集団に目を戻した。すると彼はその鳩たちの胸に、彼の傍にいる鳩と似た首飾りがついていることに気づいた。さらに注視するとどうやらそれぞれ別々の記号が記されているらしかった。彼はこの首飾りが周囲の風景から幾分浮き上がっていることが気がかりだった。しかし、この場の会話はたとえ人間と鳩のそれが互いにパラレルであっても人間は人間どうしで、鳩は鳩どうしで上手に成立しているようで、両方からあたたかい意思が伝わってくることにはかわりなかった。それに7,8人の集まりで、同じ内容の会話で一度に盛り上がることの方がむしろ貴重であることを考えれば、この人間と鳩の一見不思議な光景にあえて目くじらをたてることなど大人げないのかもしれなかった。彼はそう思ったことを誰かに伝えたくて彼の鳩の方を見たが、相変わらずその集団を凝視しているので、今度こそ心配になり、鳩の両方の頬を右手で優しく包んでそっとのぞき込むと鳩はやっと元の茶色の目に戻り、くすぐったそうにその眼を細めた。彼と鳩はそのまま寄り添って街を暫く散歩することにした。