The distorted and intricate arrows ChapterⅠ 3.The aspect of S1

S社取締役外山はその頃、心の中で快哉を叫んでいた。受話器を握る左手も、椅子の肘掛けを持つ右手も熱い。R社の人事業務受託についてR社取締役の平原から、プロジェクト開始の連絡を受けたのだ。これがうまくいけばR社の経理業務その他のスタッフ業務や、R社の属するQグループからも同様の業務を受託できる可能性が広がる。彼はそれでこそQグループ内で活動した効果があった、と思った。しかし、実際のところ、R社の業務を受託できることが内心愉快でならない。S社は資本上、R社の100パーセント子会社だが、組成としてやや趣を異にする。ある業務受託専門の会社出身のB氏が当時独立会社であったR社から出資を受けて起業した後、業績不振により、退任。外山はそのB氏と同じ企業の出身であるのだった。業績不振であった当時、R社はS社を十分に支援してくれなかった、と外山をはじめとして当時からいる人間は思っている。この場合、問題は理屈などではなく、感情なのであった。R社の資本で商売ができていることやB氏の退任の影響で自分が取締役に昇格したことなどもはや頭の隅にもなく、表面的にはともかく、心の底ではもはや遺恨となって久しい。しかし一方でこのわき上がる激情の発露こそが、業績不振の際にある通信会社から業務を受託できたこの男の源泉でもあるようだった。最近数年、新規受託は数えるほどに過ぎない。この際、一括受託にもっていきたい、と彼は思っていた。「これは正念場である。」と思い、検討にあたるプロジェクトに誰を派遣するかすこしの間考えた。採用事務などの人事業務の一部を請け負っている部署の小杉がよい、人事業務に詳しかろうと思い、決めた。