The distorted and intricate arrows ChapterⅠ 8.The aspect of H1

あの人は何をしに来たのだろう、と昼休み外で皆で話した。昨日フロアに突然現れたその人は、見慣れない営業のような人と中越さんをまじえてほんの少しの間、フロアにある長い机や円いテーブルの置かれたワークスペースで話をした後、私達を見通すことができる席にどっかりと腰をかけた。どうやらPCも準備されたらしい。総務の人がLAN回線を接続していた。中越さんからは、「当分の間あの人が仕事の調査を行うので協力してあげてほしい。」とだけ言われた。けれど、同じ派遣で来ている佐藤さんはトイレで私に「あれは人斬りかもしれないわよ。あの雰囲気は。気をつけることね。」と言った。佐藤さんは経験もあり、仕事もテキパキと片付けるなど並の社員の人よりよほど頭がいいとさえ思う。もちろん本当かどうかは分からないけれど、若手の社員の人も緊張しているのが分かる。私たちとは別に何か聞かされているのかもしれない。何人かは私たちと同じように仕事について話を聞かれている。それにしてもそのヒアリングの時に、小杉と名乗ったその男性は丈が短すぎて少しよれたスーツを着て、顔の肌がザラザラしているけれど、なんだかとても自信たっぷりで頭もよさそうに見える。私たちが何か説明する度に、「そうですか。」とか「なるほど。」とか少し間をおいて答えてメモをとる。そして時々黒い眼鏡を右手で直したり、聞いた話を手振りをつけて繰り返す。真正面に坐ってじっと顔と手元をみられるのは少し困る。「深町さん」と私の名前を呼ばれた時はなぜか背筋が寒くなったのは確かだ。そういえば小杉さんといる時にはマネージャーはじめいろんな人の視線を感じてさらに緊張してしまう。1時間も相手をしながら仕事をするといつもより疲れていることに気づいた。社員の人も礼儀正しくて、普段は結構過ごしやすい職場なのに、と思う。