The distorted and intricate arrows ChapterⅠ 9.The aspect of R3

中越は努めて表情を抑えて、S社はやはりやる気だ、と思った。すこし離れた所に小杉が自信に満ちた表情をして坐っている。昨日、S社の営業の山岸と小杉が現れて、山岸が「よろしくお願いいたします。」と頭をさげていった。小杉はすこし胸を張って「お役にたてると思います。任せてください。」と言った。無論全て任せるつもりだ。こちらも「よろしくお願いします。」と答えた。山岸が帰った後で、小杉に「極秘業務であるので主要な人間以外は詳細を知らないこと、フロア内ではお互いに直接、会話をしないことや彼も周囲への働きかけは最小限ですませてほしい、もしどうしてもという時はメールで。」と伝えた。フロア内では距離をとった方がよいだろう、と中越は判断したのだ。中越は一般の社員は別室にいくつかにわけて呼び「小杉は子会社の人間で業務の効率化の調査の一環としての取り組みのために上が呼んだ人間であること」を伝え、派遣社員に対してはその場で「仕事を調査するためにある会社から派遣されてきた人間である」と伝えた。そして念のため彼は、小杉の周囲に座る人間には、「仕事ため必要最小限のコニュニケーションにとどめるように」と伝えた。しかし、驚いたことに小杉に2,3人にヒアリングを任せただけで、小杉の自信が別の形で伝播したものか、ヒアリングされた人間を含めて、場自体が凍った。全員ではないが気づかれたかもしれない、検討するためにもこれ以上気づかれると、支障をきたす可能性があると中越は思った。そして、人事の仕事は社内の環境や文化を育むことも含まれる、自分はあの男とは立場が違うのだとも思う。それにS社内でこの件で盛り上がっているという川上の話とつきあわせて、いずれにしろ平原のいうように主導権はこちらが握った方がよいと思った。調子に乗せすぎるといったい何を切り出すというか知れない、と思うのだ。すこし思案した後、みなの席からすこし離れたワークスペースで小杉に「ご存知のようにこちらでもこの案件について平行して計画を進めていますから、お仕事の支援はできると思います。すこしづつお任せしますから、安心してください。社員もそれなりには知っていますが、調査の目的自体を伝えるのはくれぐれもこちらにまかせてほしい。」と伝えた。小杉が意外と重々しく頷いたのを見て、中越は席に戻った。