an island~an extract from a hidden ship`s log~3.a sky seen on a grand

「やはり宙を奔るようにはいかないものだ。」と船員は呟いた。まず向かうべき里はもう見えているので、気分的にはだいぶ楽であったけれど、島の重力によるものか、それとも遭難後まだ体力が回復していないためか彼の歩みは思いのほかゆっくりしたものになった。船員が宙を見上げると、白い雲の間を飛行船の航路の軌跡が優雅なほどの色合いと淡い輪郭で幾筋も架かり、時には交差しながら碧い空の端っこのあたりまで空と微妙に溶け合いながら、どこまでも広がっていた。太陽はちょうど雲の陰になって、背後から明るい光を空一面にぼんやりと放つ一方、白く透明に輝く細長い月が雲間にやんわりと浮かんでいた。海から吹く湿り気を含んだ幾分重みのある風が顔にあたることに今更ながら気づいて、船員が目を足元に戻すと、ここが辺境であることを示すかのように、路は舗装されておらず、乾いた路の表面には轍が2本深くしっかりと刻まれて里の方まで続いていた。船員は歩き疲れて、路の端にある灰色の岩にもたれて脚を伸ばし、すこしの間休むことにした。座ると少し遠くの潮騒の響きが頭の前の方に向けて静かに浸ってくることに気づいた。