an island~an extract from a hidden ship`s log~4.under construction

太陽が空の頂点よりも少し西側に傾きはじめた頃、白く輝く三日月を眺めながら船員はゆっくりと立ち上がって、再び歩きはじめた。里の方角に目を向けると、かなり遠く彼方に南の黄色い大きな果実をいっぱいに乗せた台車が馬に引かれて揺れながらゆっくり進み、視界の末までいかないうちに丘の陰に入った。海から離れるにつれ、また里の方角に向かうにしたがって、寛く緩やかな丘が無数に連なり、重なりあうようになった。路はその丘を乗り越え、また丸くやわらかく丘の周りを迂回しながら続いていた。すこし歩くと、何かを建築している現場のそばで、総監督のもと数人のまるで違った服装や年格好の親方が何人も同じように働いているのに出会った。道なりに近づくとその一人とふと目が合ったので、船員は「こんにちは。何のお仕事をされているのですか。」とその親方に言った。その男は「見ての通りさ。積み上げているのだよ。分からないかい。」と大声で答えた。船員が「完成するとどんな美しい姿になるのですか。」と聞くと、男は「ばかいっちゃいけないよ。最終形を描くのは俺の仕事じゃないよ。積み上げることに意味があるのさ。俺はそのためにいるのだし、積み上げている限り仕事はある。いくら長く久しいものとなろうとね。君は海に注ぐ理由を川に尋ねるのかい。」といいました。船員が「そうですね。それではどんな気持ちでお仕事をされているのですか。」と聞くと男は「気持ちなんて誰のものでも考えたことないね。ここじゃそんな余裕はないし、結局邪魔になるだけだよ。」と視線をすこし下にむけて早口で言った。そこに別の親方がやってきて、「俺の意見ではそんな方法じゃとても積めないな。土台の造りが甘いじゃないか。下部構造ってものを知らないのかい。」と言いました。一人目の親方は「無粋なことをいうものじゃないよ。ちょっと危ういくらいの所だって妙味があるのだよ。武骨な君にはこの美しさが分からないのかい。」と言い返した。二人の間で議論がはじまり、二人とも船員がそこにいることが不自然なほど白熱してきたので、船員は目礼してまた歩きはじめた。すこし歩くとさらに別の親方が座って煙草を吸っていた。近づくと「ああ分かった。働きたいのだな。」とその男は船員に声をかけた。男はそばまでやってきて、「由し由し。あのあい言葉は知っているね。そうVやYの字がはいったあれさ。」と言ったが、船員を頭からつま先までじっと見まわすと、「よく見ると君はまるで職人じゃないね。」といった。船員が「やはりここで仕事はできませんか。」と聞くとその男は即座に「ああ。だって俺に全然似てないじゃないか。それじゃ絶対だめだよ。」と言った。船員は「そうですね。確かにあなたに似てはいないようですけれど。」と言うと、男は「そうだろう。俺みたいなのがいいんだよ。」と胸を張って答えた。「そうなのですね。あなたこそあるべき姿なのでしょうね。」と船員が言うと、男は「みなもきっとそう思うことだろう。俺は最初からずっといるんだよ。こんな技術や作業はみんなはじめてだけれどね。」と答えた。船員がすこし黙っていると、男は「ところで君、俺が体現しているものはだんだと思うね。」と尋ねた。船員は「建築することですか。」と答えると、男は「なにいってるんだね。ここのカルチャーそのものに決まってるじゃないか。」と言った。船員が「そのようですね。ところで、この現場はいつから存在するのですか。」と聞くと、男はすこし遠くに視線を向け「あれは一昨日のことだよ。」と言ってさらに話を続けた。夏の真っ直ぐな日差しはまだまだ強く、積みかけの赤い煉瓦や既にカラカラに乾いた地面をじっくりと焼きあげ、そこから湧く熱気が海から吹く風にのって別の方向にゆっくり漂っていた。船員は尚驚嘆するほど、まだ道のりがあることを知った。