island~an extract from a hidden ship`s log.19 a way of utilizing shield -鄯

街燈のオレンジの明かりは、うっすらとした霧に包まれておぼろげに輪郭を和らげて、薄く湿った路面にも揺れるような姿で映り込んでいた。秋は徐々に深まっているらしく、船員は耳の先と首元の素肌に洗いたての絹のようなひんやりとした秋の気配を実際にしっかりと感じて、上着の襟を立て、腕の前の部分を体の前で組んで、路を一歩一歩足先で確かめるように進んでいた。この街は、外壁と城門の重厚な様子からして大きく立派な街のようであったけれど、船員が着いた時には日は既に沈みこんでおり、彼は街の様子をしっかりとはつかめずにいた。この街は、自然の山地の地形に手荒く沿う形で建てられたようであり、街中の路もただ無作為に任せたためか、あるいは防衛上の理由によるものか、細く入り組んでおり、街のところどころで交差したり、坂になって視界から消えていった。石造りの家々の明るい団欒や酒盛りの賑やかな余韻が零れる中をしばらく歩き、道端に「遠方の倫理をこの街にも。」という旗を持った像が忽然と立っている辺りを過ぎると、船員の目の前には武器を売る店がぴったりと軒を連ねて、そのどの店の軒先にも、銅板で浮彫にされた小さな盾や剣、鎧などがくっきりと彫りだされて、空から降り注ぐ月の明かりと街燈の光に映って、幾つもの方向に影を添えている光景が広がった。船員がある店の前を通りかかると、店の主人らしき人が大声で呼び止めた。男は「旅のお人ですな。我が街は武器を扱っていることで有名であり、その中でも我が店はじ盾を扱う最もよい店なのです。ぜひ寄っていかれませ。」と船員にいった。船員は剣や槍、鉄砲にはさほど興味がなかったが、盾ならば護身用によいかとも思い、店の中に入っていった。船員が店の中に入った時、船員の胸元の白い鈴が驚いたようにシャリリと鳴った。店は入口の狭さに反して奥に長い作りになっていて、壁一面に盾が取り付けられていた。男は口の端で笑って、壁に立て掛けている盾のいくつかを取り外して船員に見せた。「この盾はどうかね。」と男がまず渡した円形の盾の中央はくっきりとくり抜かれていて、男の胸や腹を船員に見せた。船員は「それは透けているのですか、それとも空洞なのですか。」と尋ねた。男は「決まっているでしょう。もちろん空洞ですよ。なぜだかわかりますか。」と言った。船員は肩を竦めて、「平和のために退化しましたか。」と答えると、男は「不謹慎なお答えですな。この近くで戦闘がおこなわれたのは2週間前のことですぞ。これは訓練用の盾なのです。君、はなから盾で身を守ろうとなどするものではありません。戦闘は目の前の敵を倒すことに集中すべきではありませんか。」と言った。船員は「でしたらその右手の方にある盾はどんなものですか。」と言った。男は口元だけに笑みを浮かべて、「これですか。試してみればわかります。この盾はとにかくすばらしい。」というと、どういうわけか窓を開けると、店の壁にかかっていた弓と鏃をいくつも手にとって布で丁寧に拭って船員の手に押し込めた。男は「さあ、実演をしてみましょう。ちょっと準備をするので待ってくださいよ。」というとその大きな盾の後ろに隠れて、盾の角度をごそごそと調整した。男は一呼吸置くと、「さあ。挑戦を受けましょう。俺はこう見えて受け止めることが得意である。何を躊躇している。男ならこの盾の真ん中に鏃を叩き込みたまえ。ここですぞ。」と言った。船員はなおも渋ったが、「まさかおぬしは弓の一つも引けぬ男であるのか。盾は安全であるといっているのにじつに失礼である。もはや人間ではない。」などと男が執拗に迫るので仕方なくだいぶ男から離れると、弓を一杯に引き絞って鏃を撃ちだした。ぐわんと音を立てて、船員の手を離れた鏃、男のしがみつく盾に見事に命中したが、そのあとでどこにいったものかもはや検討がつかなかった。男だけはにやりと笑うと、「どうだ。この盾は傷一つついていまい。さあもう一度撃ってみたまえ。」と言った。船員はすこし嫌な予感がして、今度は先程よりも僅かに緩く引いて、鏃を放したが、男はそれに気づいたのか、両腕を少し押して鏃を弾いた。男は「はは。どうだ。私の勝ちである。悔しかったらもう一度撃ってみたまえ。」と言った。船員はますます嫌な予感がして、だいぶ浅く弓を引いて、鏃を手から放したが、男は今度は左足を力強く踏み出して、盾を両腕で下から押し上げるようにして受けた。男は満足そうに頷くと、「どうだね。私の盾は力強いだろう。」と言った。まもなく店の近くが騒がしくなって、数人の男たちが店になだれ込んできた。男たちは口ぐちに「我が家を襲ったのはお前の鏃か。公道越しに商売敵を撃つとは何事か。殴りつけられたいのか。」と窘めたが、店の男は「撃ったのは私ではない。この通り盾しか持っていませんからな。鏃にはその男の指紋がついていることでしょう。」と言った。