Long time no see but little invisible.2.a small cover on deep fountain

昔々空と地の境がまだ遠く曖昧だった頃、ここから山を幾つか越え、海を渡ったあたりのお話です。この国には、大きな火山が幾つもあって、平野からでも盆地からでも、人々が晴れた日に瞳を東に向けると、空の端の方に微かに立ち上る白い煙をみな見ることができたそうです。ある時、男が別の国からやってきて、ひょんなことからこの地に住むことになりました。男が自分の住む土地を調べると、古ぼけた蓋があることに気づきました。男はこの蓋の隅をめくっておそるおそる中を覗き込みましたが、暗いためなのか何も見えません。男は「こんな空洞と蓋があるなんて、じつに恥ずかしいことだ。」と思い、街で出来合いの少し大きな蓋を買ってきて、古い蓋の上にかぶせました。しかし、しばらくすると、この新しい蓋もなんだか気に入らず、落ち着かなくなってきました。男は蓋の上に土をかぶせ、足で踏み固めました。「どうだ。蓋なんてもうないのだ。」と男は叫びました。しかしまたしばらくすると、所在のない気持ちになってきました。そこで男はその上に木で土台を組み、床を造り、小さな家を建てました。ある時、男が友人と隣町まで出かけた際、煉瓦造りの門と壁で囲まれた家の前を通ったところ、友人が「じつに立派な家ですな。定番のベージュを基調とした色彩の妙といい、橙色の屋根のなだらかな傾き具合といい実にすばらしい。」と言うと、男は「いや私に言わせれば、こんなものじつはたいしたことはない。そしてこれは真実だ。」と言いました。友人が「そうでしょうか。家の持ち主の趣味やら、考え方がよく映っていると思いますけれど。それにこんな家の土台はきっとしっかりしているのでしょう。あの星と三日月の形をしたプールも素敵ですね。」と言うと、男は笑って「君は家ってもんを理解していないね。家なんてつまるところ蓋にすぎないのさ。大きいということはつまりそれだけの蓋を必要としているということなんだよ。」と言って、胸を張って自分の家に帰っていきました。それから何十年か経ったある日、お役人さんが何人か男の家にやってきて、簡単な調査をすると言いました。しばらくすると、お役人さんが困って、なにか話し合っているようです。男がそばにいくと、ひとりのお役人さんが「このあたりに井戸のような、小さな構造物がなかったでしょうか。」と男に尋ねました。男は「いや知りませんな。それは何のためのものですかな。」というと、お役人さんは「いやご存じないとはじつに珍しい。この国の宅地には宅地一つにつき温泉が必ず一つ割り当てられているのです。百年に一度か二度、こうやって検査するきまりなのですが、心当たりはございませんか。」と言うと、男はこういいました。「全く見当もつきませんな。長くここに住んでいる私がいうのだから間違いはない。そんなものなかったんじゃありませんか。」