Long time no see but little invisible 4.a mineral product.

昔々未だ空と地の境が遠く曖昧だった頃、尖塔のあるこの街から幾つか山を越え、海を渡った辺りのお話です。
この地域の中心の街の一つから川を下り、草原を突き抜けたあたりに小さな街と、そのすぐ近くに七色の複雑な光を放つ鉱山がありました。その鉱山にある旅装の人が立ち寄りました。そこではたくさんの男たちが、けれど全員似たような格好をして、何種類かだけの道具を使って、やはり同じような動作をしていました。旅装の人は、その場でしばらく眺めていましたが、やや左に小首を傾げて、その男たちの一人をつかまえると「それでどんなものが採れますか。」と尋ねました。一人目の男は、緑色のスコップを握りしめて、「緑色の鉱石が採れる。どうだ。これは緑の少ない街に緑色を足すのに使われるそうだ。」と言いました。旅装の人は、「なるほどそうなのですね。」と言った後、「その道具は専用のものですか。」と男に聞きました。男は「さあね。けれどこの緑色の鉱物を急いでたくさん採るのにはとても便利だね。なんでも都会という所ではこれを使っているらしい。実際に鉱物が売れるのだから絶対間違いない。仔細はわからなくても売れることは大事だよ。」と言いました。旅装の人は次に赤色のハンマーのそばで休んでいる人に「それでどんなものが採れますか。」と尋ねました。男はハンマーの柄をこぶしでコツコツと確かめるように小突くと、「赤色の鉱石が採れるんだ。これは都会の人の血液を足すときに重要な物質だそうだ。」と言いました。旅装の人が「なるほど。ところでその道具は専用のものですか。」と言うと、男は「流行りのものだよ。都会で使っているらしい。」と言いました。旅装の人が「都会で使っていることは大事なことですか。」と聞くと、男は「道具を買うにも、鉱物を掘るにも鉱山の責任者の認可が簡単におりるのさ。実際にこの赤い鉱物はよく売れるのだからいうことないね。」と言いました。旅装の人は三番目に黒い色をした斧をかついでいる人に近づいて「何が採れますか。」と尋ねました。男は肩をそびやかして「さっぱり切り出せないよ。我が斧にかけてここは山じゃないと断言できるね。」と言いました。旅装の人は、四番目に青色のツルハシを磨いている人に話しかけました。男は「どんなものが採れるかだって。決まっているじゃないか青いツルハシで採るのは青色の鉱石だよ。」と言いました。旅装の人が「その青い鉱物で何を造るのですか。」と尋ねると、男は『なんでも都会で空に浮かぶ船を造る場合に「浮動装置」の根幹をなす鉱物らしいぞ。』と言いました。旅装の人は「ここには3種の他に鉱物はないのですか。」と尋ねると、男は「さあね。それは別の道具をもった人が現れた時に分かることじゃないかな。すくなくともここではそうさ。人数や道具は必要な分しか置かない決まりさ。最近はとくに厳しくてね。」と言いました。そこにたくさんの計測器具や掘削器具を持った人たちが現れました。旅装の人がその集団のひとりに「何が貴方がたにこんなにたくさんの計測器具と掘削道具を持っているのですか。」と尋ねると、その男は「計測器具も掘削器具も鉱石にあわせて作る習わしでしたが最近は既成品が増えましてね。けれど掘る環境は変わらず結構多様です。予め定められた道具で定められた鉱物を探すことは他に任せて、私達は需要をおおまかに把握して、むしろこの鉱山固有の環境の方に注目しようとしているのです。無駄だといわれるかもしれませんが。」と言った。しばらくすると、男たちは歓声をあげて『きっと偶然でしょうが、不思議な鉱物が見つかった。これは特殊な伝導体であり、他にはそうないものかもしれない。』と旅装の人に話しました。ある湖の水の最初の一滴が、空から零れて森のすらりとした木の葉のひとつをそっと揺らしたのはそれからまもなくのことだということです。やがて雫は流れとなり、谷間を縫って、大陸の中央の火山が熱く爆ぜた後のカルデラをみたして、湖になったと伝わっています。その小さなとても深い湖は、広大な宇宙のただ中にあって、寛大な趣で微笑みながら空の月をみなもに受けて天の恵みを顕しているそうです。そして今日も尚その澄んだ大きな瞳で、夏には空高く昇る黄色い太陽とその黒影を映し、秋には山々の様々な色彩と感触の木の葉を思慮深く受け、冬には雪と氷の紋様を綾なして、春には森の生え揃う青葉とそれを支える木の根の揺り籠となっていると聞こえています。