Long time no see but little invisible 7.a strange store.

昔々まだ空と地の境が遠く曖昧だった頃、鐘の音を美しく響かせる尖塔が空高くそびえるこの街から、山脈を幾つか越え、海を渡ったあたりのお話です。
ある街に、男が不意にやってきました。男は広場の片隅で、「あの雑貨店の銘の入った商品はとてもよいらしい。」と小耳に挟みました。そこで男は灰色の上着を着込んで、勢い勇んで雑貨店にでかけるました。男が店に入ると、雑貨店の店長が「いらっしゃいませ。何をお求めですか。」と言いました。男は「銃弾を1ダースほどくれないか。この店の銘の入ったのがあるはずだから。」と言いました。店長が「恐れ入りますが、何に対して、使われるつもりですか。」と尋ねると、男は「君。私は客だ。買ったものをどう使おうがかまわないはずだ。さあ売りたまえ。」と言いました。店長は「お客様。残念ながら、その銃弾をお売りすることはできません。当店には銃弾など置いておりません。それに当店では、信頼できるお客様にだけ、それも店の大切な商品を丁寧に説明した上でしか販売しないことにしております。」と言いました。男は「私に売らないとは、君もこの店もじつにおかしい。私はこの通り金を持っている。つまりこの店の商品を買うに値する男であるわけだ。さあ売りたまえ。」と胸を張って言いました。店長は「恐れ入りますが、お引き取りください。当店ではあなたのような方に危険な商品を売ることはできません。銃弾もおいておりません。」と言いました。男は、「そうか。なるほどよく分かった。」というと、自分の家にとって返して、灰色の上着を脱ぐと、銀色のコートを着込んで、また店にでかけました。男は店に入ると、「さあ私もこの通り、光を纏うものである。この店で商品を買うに不足はなく、むしろお釣りがくるほどである。どうだ。」と言いました。奥から顔を出した店員は、「なるほどあなたは、どこかの光を反射していることは事実のようです。何か御用ですか。」と言いました。男はふむと頷いて、「この通りピカピカであるからして、弾を売りたまえ。」と言いました。店長は「恐縮ですが、当店にはそのようなものは置いておりません。お引き取りください。」と言いました。男はコートをぬぐと、「これでどうだ。」と言いました。店長は首を傾げて、「別のお客様もいらっしゃいますから、お引き取りください。」と言いました。男は、顔を怒りに染めて前後にわずかに揺らしながら、努めて平静を装って、「なるほどよくわかった。この店は売らない店であると街で言うが、異存ないな。」と言って店から出ていきました。お客の一人がそっと、「困らないのですか。」と尋ねると、店長は「やむをえません。当店は従来からもそうでしたが、今後の新サービスの性格上も、なお一層お客様やその情報、当店でのやりとりの内容を大切に保護するものです。そして、場合によっては販売をお断りすることも店の処し方の一つでございます。」と言いました。店の外では男が「この店の売らないという実態を白日のもとにさらさなくてはならない。そして私の見るところ、この大きな雑貨店こそこの街の繁栄を妨げる元凶である。あの店員が店から出たら、それを周知しよう。」と周りのものに言いました。それからしばらくして、店員は別の出口から、街の定期便の幌付き馬車に乗って、外に出かけていきました。あの寛大な趣のある湖の水の最初の一滴が空から丸く零れて、ひんやりとして深く静かな森のすらりとした木の葉のひとつをそっと揺らしたのはそれからまもなくのことだということです。葉っぱは弓のようにしなり、雫は鞠のようにはずむと、やがて清流となり、谷間を緩やかに縫って、大陸の中央にある火山が熱く爆ぜた後のカルデラに注いで湖になったと伝わっています。その小さなとても深い湖は、広大な宇宙のただ中にあって、寛大な趣で微笑みながら空の月をみなもに青く受けて、天の恵みを顕しているそうです。そして今日も尚その澄んだ大きな瞳で、夏には空高く昇る黄色い太陽を映し、秋には山々の様々な色彩と感触の木の葉を思慮深く受け、冬には雪と氷の紋様を綾なして、春には森の生えそろう青葉とそれを支える木の根と幹の揺り籠となっていると聞こえています。