The simple tales to grasp the earth by its tail.1.a strange house

昔々、赤い煉瓦造りの建物が並ぶこの街とあの湾の向こうに遠く見えるあの白い街がまだ別々の大陸にあった頃のお話です。
ある島が、海のあるところからまたある場所へとゆっくりと移動しておりました。島はど十分に広く、海に霧がかかる時分には、輪郭もやんわりとぼやけるほどでした。ともかくこの島には、十棟ほどの大きな家が建っていたそうです。しかし、しばらくすると、その中でもとても大きな家の一つが古くなったためか、それともその頃の島の様子に合わせるためか、家の中にまた少し小さな家を建てた後で、それまでの外壁や屋根を取り払ってこぢんまりとした趣の家に替りました。するとその小さくなった家の近くに建っていた頑丈な家がいつのまにか膨らんでいきました。この家の住人の一人が心と耳をすますと家のあちらこちから「ブルブル、ムクムク。ブルブル、ムクムク。」と音が聞こえてきます。男は心配になって、幾人かの大工を呼んできていいました。「この頃お家がどうもその、膨らんできたようなのです。歪んで変なものがでないか気がかりです。どこか具合の悪い所があるのでしょうか。」。大工の一人は、「家は周知の通りとても丈夫であるようです。このあたりの気候は暖かく、成長を歓迎する風土もある上に、近年新しい土地も開墾されていますから、よく育つのも道理というものでしょう。」と言いました。二人目の大工も、「家は本来ゆっくりと外側に膨らむものですからね。それでこそ健全な家であるはずです。」と言いました。家人も「そうですね。けれどちょっと急な気がするのも確かなのですが。」と言いました。三人目の大工は、「近くのあの家を観察すると、どうも最近小さく建て替えたようですね。この家はその空いた場所を無意識に埋めようとしたのではありませんか。」と言いました。家人は「なるほど。私はいつもと変りなくしていたつもりですが、ひょっとするとそうなのかもしれません。」と言いました。三人目の大工は「外壁も屋根も、結局のところ外側からの力と内側からの力の均衡したところで決まりますからね。けれど急に膨らむとある時点では内側の構造が足りなくなりがちですね。枠組みや環境との調和のための別の工法をとった後で、密度を高める工法が機能する場合もあると専門書には書いてあります。ちょっと見てみないと分かりませんが。」と言いました。そこで四人目の大工が口を開いて、「外から風を当てて内側の強度を測定する手法も外国で開発されたようです。けれど私の見方ではその手法も自然の摂理を幾分人工的に再現したもののように思えてなりません。もっともフェアで妥当な理由があるのなら、外側からぎゅっとすることだって家を建前にする手法の一つかもしれません。」と言いました。三人目の大工も「壁や屋根も外からはりますね。やむをえないわけですが。自然を敬い、神様や万物にお願いするだけでなく、本質と法律の範囲内で無理なく施工することが必要でしょう。」と言いました。無数の島と大陸が、曖昧にゆっくりとくっついて、今のように優しく自然と明るい大陸になったのはそれからしばらくの出来事だということです。