The simple tales to hold the earth by its tail.2.a strange sweet shop.

昔々、赤い煉瓦造りの建物が並ぶこの街と空に浮かぶ月のもと同じ湾の向こうの端に遠く垣間見えるあの白い街がまだ別々の大陸にあった頃のお話です。
 ある街にお菓子屋さんがございました。ある時、いつも苺と夏蜜柑のタルトを楽しそうに作る店員が店の主人のところにやってきて言いました。「店長。新しいチョコレートができました。見てください。おいしそうでしょ。」。店長は、ふんわりして、とろんとしたそのチョコレートを見て、柔らかで扱いが難しそうだと思いました。店長は店員にこう言いました。「こんなチョコレートはちょっと分からない。わからないものは売ることもできない。ようするに、このままではないのと同じである。ちいさな瓶に落としこんで他の商品とあわせて売るのが、じつによい。いやそれしかないのはお菓子屋の見る所あきらかである。」。店員は言いました。「このチョコレートはあの狭い口のちいさな瓶に詰めるようなものではないと思います。たいへんです。それに他のチョコレートだって、ちいさな瓶に直に詰めてないでしょう。他の方法で売ることはできないでしょうか。」。店長はコホンとせき払いをして言いました。「君は規格がつくる美というものを知らないね。瓶の形にして平等にしてこそ、簡単に現金化できるのだ。まあよい。私に名案がある。ありふれたちいさな瓶を熱して、チョコレートにつけたまえ。そして取り出した瓶をあの冷蔵庫で冷やすのだ。そうすればそのわけがわからないチョコレートも立派にちいさな瓶の形になるであろう。これでこそまさに一件落着である。」
無数の島と大陸が、曖昧にゆっくりとくっついて、優しく自然な時間をへて寛大な趣の陸地になったのはそれからしばらくの出来事だということです。