The simple tales to hold the earth by its tail.6.the chair for making decisions.

昔々、遙か西の国の港を巡り、やがて南の国を目指した船団が、秋から春にかけて大陸沿いに吹く風にのって、坂の多い港町から遙か遠くの洋上で帆をはって船を駆り、月夜の晩に白鯨の群れと遭遇したと航海記録に残っている頃のお話です。
 港町から出発した汽車が箱のような形をした客車をひいて、丘を越え、湖の湖畔を通り、野原を走り、ある市街地に寄りました。街では人々が祭りの準備にいそがしく、動きまわってい街に立ち寄りました。ひとりの旅人が汽車から降りると、辺りはとてもとても蒸し暑い気候なのでした。街ではなにかの祭りをしているようで、街の人々がいそがしそうにしておりました。旅人が街のひとに「これは何の祭りですか。」と尋ねると、街のひとは「天にむかって今年の自然の恵に感謝して、来年の豊作を祈るとても大切な祭りです。そして人々はこの祭りで一年の方針を決めるのです。ご覧になっていったらいかがですか。」というので、旅人は街のなかをゆっくり散策することにしました。街角には、様々な服装をした人々が、おもいおもいに祈りながら、けれど、みな様々な石を集めてつくった素敵な椅子の上に座っていました。旅人が「あなたの椅子はとても素敵ですね。」と、ひとりの街びとに話しかけると、「そうでしょう。とても大切な石やパーツを丁寧に組み合わせて自分で作ったんです。といってもこの椅子の形や、材料の石にもトレンドや地域性というものがあってね。意識しないと近所の椅子とまるで同じ椅子になってしまったり、あるいは色違いの相似形の椅子をつくっちゃったりするもののようだね。」といって微笑しました。「広場にいけばもっとたくさんの椅子をみることができるよ。」というので、旅人は広場にむかうことにしました。街の広場は、降り注ぐ陽の光と近くの白い教会の建物からの照り返しで、いっそう暑く空から蓋をしたみたいな気候で、空気がゆらゆらめらめらと空へと立ち上っておりました。広場のなかでは街角よりもずっと多くの人々が、やはり石で造った椅子の上で祈っていました。しかし、旅人がよく見ると、広場のひとのなかには、一つの岩の上に立って祈っている人もいたのでした。旅人は不思議に思って、赤茶色の岩の上に立つ男に近づいて、「あなたは、岩の上に立って祈っているのですね。」というと、その男は「どうだ。やるもんだろう。こんな尖った岩の上ではこうやって体全体のバランスをとることこそ大切なんだ。」といいました。旅人が「あなたは石造りの椅子には座らないのですね。」というと、男は「馬鹿いっちゃいけないよ。こんな暑さではとても椅子なんて造っていられないし、座ったら焦げてしまうってもんさ。椅子に座るやつの気が知れないね。この岩が気になっているらしいが、これでも一般的にそこらへんの山に転がっているものだから、彼らが座っている椅子と材質は変わらないさ。いい色だし、よい形をしているだろう。俺にぴったりさ。男は岩ひとつで十分さ。」と剣をもった右腕と左腕で、体を器用に回転させながら答えました。翌日旅人が男のそばを通ると、男は今度は黄色のやはり尖った岩の上に立っていました。旅人が「今日は黄色の岩の上に立っているのですね。」というと、男は「こんな暑い日にはこれがいちばんだと気づいたよ。椅子を造っている場合じゃないんだから。選んだんだから。これこそ必要な岩だよ。」といいました。
この西の国の話を旅人から船員が聞きつけ、千里万里をあい語り継いで東の国で柿と夏みかんの表紙の平たい絵本になり、みなが暖炉の前で子供をあやしながら、読みきかせることができるようになったのはそれからすこしたった頃だということです。