The simple tales to hold the earth by its tail.7.a strange postman.

昔々、遙か西の国の港を巡り、やがて未知の南の国を目指した船団が、今日も尚秋から春にかけて大陸沿いに吹く風にのって、坂の多い港町から遙か遠くの洋上で帆をはって船を駆り、ある月の明るい夜に白鯨の群れと遭遇したと航海記録に残っている前後のお話です。
ある海近くの岬の街に、郵便屋さんがいました。この郵便屋さんは、どうやら、大きな街にも小さな村にも、海辺や森の中や山の麓にも必ずいる郵便屋さんの一人であるようでした。彼は(郵便屋さんの服は誰も同じなので、彼なのか彼女なのか外見からはわからないのでしたが)、毎日、お手紙や荷物を運びます。だいぶ長い間その仕事をしているせいなのか、それとも生まれついての郵便屋さんであるためなのか、もう自分が手紙や荷物を運んでいることさえ、忘れているのかもしれません。ともかくこの郵便屋さんは、今日も郵便を運びます。彼は毎日あるポストに立ち寄るのです。そのポストは公園の端っこ、大きな木の隣にすっと立って街を眺めたり、本を読んだり、時には小鳥にひんやりと冷えた飲み物をだしたりして、暮らしていました。郵便屋さんは時にはポストに何か声がけしたり、ときには押し黙ってじっと見つめたり、またある時はそれと分からないようにポストに耳を澄ましたりしていましたが、本当のところそのポストから話をきこうとは思っていないようでした。そんなときホストは大事な物は頭のなかにもしまってあるのにと思ったそうです。作者もお話するのをつい忘れていましたが、ポストの名前をダニエル、郵便屋さんの名前はモルトさんといったそうです。あるとき公園のポストのダニエルは、郵便屋さんのモルトさんを毎日、そしていつのまにか見ていて、今日は肩に枯れ葉がついてるとか、今晩は街の酒場のお酒の香りがするとか、火薬の匂いがするとか、それとなく観察していたのでした。あるときポストのダニエルは、郵便屋さんのモルトさんに「今日は前のポストさんは元気でしたか。なにかお茶でもしたのでしょう。シナモンと林檎のよい匂いがするから。」といいました。しかし郵便屋さんはポストのダニエルの話はまるで分からないのかもしれません。モルトさんはコホンとせき払いをするといつもと同じように、ポストのダニエルの背中から手紙や小荷物を取り出すと、仕事はこれまでとばかりに、次のポストの所へと小さなバイクに乗っていってしまいました。モルトさんは日によって機嫌よく、あるいはしかめ面でやってきました。こんな日々が春夏秋冬、ずっと続いたそうです。あるときポストのダニエルは良いことを思いつきました。郵便屋さんの服の背にポスト語(ちょっと特別な言語であるようで詳細まではわからないのですが)でつくった小さなタグをパチンとホチキスで留めておくのです。すると次の日にダニエルさんの背中をみると、前後のポストの誰かが書き込んだ手紙がはさまっていました。ポストのダニエルは嬉しくなって、次の日ポストの誰かにむけた手紙をモルトさんの背中に留めました。それからそれは長い間その通信は続いたそうです。モルトさんは時には、ダニエルを蹴っ飛ばしたり、小言をいってきたり、あるいは上機嫌で鼻歌を歌いながらやってきましたが、背中のポケット(いつのまにかちょっと大きくなったようなのです。)からは、手紙や小さなお菓子の包みがでてきました。ダニエルは、ちょっともどかしいおもいがしましたが、いつかもっと大きな看板をもったり、郵便局になろうかしらと思案していたそうです。ダニエルがどうなったのかはまた別の機会にお話をしようと思います。尚ダニエルが、モルトさんの背中のポケットに気づいてくれたポストさんを知っていたのか、そうでないのかはちょっと話すわけにはいかないようです。
この西の国の話を旅人から船員が聞きつけ、千里万里を語り継いで森におおわれた東の国で柿と夏みかんの表紙の絵本になり、みなが暖炉の前で愛らしく座る子供をあやしながら、読みきかせることができるようになったのはそれからすこしたった頃だということです。