The simple tales to hold the earth by its tail.15.a strange green apples farm.

昔々、遙か西の国の港を巡り、やがて未知の南の国を目指したという船団が、小高い丘と坂の多い港町に寄港したあと、暁に遙か遠く洋上へ向けて帆をはり、今日も尚秋から春にかけて大陸沿いにひんやりと冷たく吹く風にのってしばらく航海していた頃のことです。丸くはずむ月が夜空に浮かんだ明るい夜に、帚星が尾をひいたその瞬間、この船団が右舷の方向に、絵画のような漆黒の海面を、白鯨の群れが裕然と泳ぐのを目撃したと航海記録に残っている前後のお話です。
 ある年のこと北の国の火山が爆ぜて、空を灰が覆い、地に灰が積もりました。妖精たちは、一面の灰色の世界で何をすべきかに途方にくれました。ある妖精は「何も決めなくてよい。生き抜けば状況は変わり、なんだか回復することは豊かな自然の決まり事である。」と言います。妖精たちは、「そうだ。何も決めない方がよい。自然は偉大である。なにも決めなければ、全て成功できる。」と叫びます。ある妖精は、「灰色でなく黒がよい。黒こそ灰色に効くのだ。灰色は黒ほど強くないのだ。」と言います。妖精達は「そうだ。灰色はいやだ。いっそ全てを黒く塗り直そう。」と叫びます。ある妖精は「まじめなことをしよう。そのためには、我々は四角なってもかまわない。」と言いました。妖精たちは、「そうだ。感情など邪魔だ。この灰色の大地で転がってたまるか。四角くなろうじゃないか。」と叫びます。ある妖精は「どこにでもできることをしよう。それは、ここでもできるのだ。」と言います。妖精たちは「そうだ。ありきたりのことをしよう。考えなくても想像しなくても、必要なものが分かるじゃないか。いっそ全て忘れよう。」と叫びます。けれど、妖精たちの会議中、妖精の大地では灰色の風景が続きました。やがて妖精たちが議論につかれた頃、ある妖精が「伝説の青いリンゴをつくろう。」と言いました。妖精達は「この土地は赤いリンゴがとれる。お客さんもいるのだし、それで十分じゃないか。それにリンゴは何も言わないじゃないか。」と叫びました。しかし、この妖精は「誰も見たことも食べたこともない、けれどみんなが想像できる青いリンゴをつくろう。甘味の酸味も香りも素敵な青いリンゴをつくろう。」と言いました。数百年の後、妖精の大地の一角に、青いリンゴの果樹園があり、青いリンゴの果樹園の周りには、蔵や酒造所、農家が並んで街になり、その外周には赤いリンゴの果樹園が連なり、リンゴを運ぶ馬車がひっきりなしに行き来する街道が通っているということです。
 笛と竪琴、バイオリンを抱えた楽団が、箱型の馬車で千里万里を旅した後、春のある日、森と水の豊富な東の国に皆で伝えたとのことです。やがて、お話はみな東の言葉で訳され理解されて、銀色の琴奏者の郷里で、柿と夏みかんの表紙と四季の彩り豊かな背表紙の平たい緑色の絵本となりました。そして、雪降る夕、祭りで聞く鐘の音を思いながら、銀色のさらや燭台の置かれた台の前に有る明るい色のソファーで、親たちが子供達の愛らしい手を優しく握って、安らかな呼吸であやしながら、読むようになったとのことです。