The little garden in a village around space.7.

キプロスは、飛行船をつくろうと思いました。ふわりと浮かび、夜は月の海、昼は明るい太陽の宙空を滑るようにすすむ白い飛行船。不思議なことにその飛行船はもうずっと頭の中に愛らしく存在していたようにキプロスは思えました。キプロスは老人に「私には飛行船が必要です。飛行船をつくろうと思うのです。」と言いました。老人は、「たんなる思いつきではなさそうね。どんな飛行船かしら。」と言いました。キプロスは、「その船は白くふんわりとした真新しい機体をして、遙か上空で背後からの陽光に彩られて、とても静かに、しっかり飛んでゆくのです。あの高い塔を旋回した白い鳩の群れが平野に飛ぶように。」と言いました。老人は微笑して「そう。」と言って、代わる代わる塔の向こうの青い空に浮かぶ飛行船を見やりながら、「この土地も偏西風が一年中吹く場所。向かい風は案外離陸に適しているものかしら。」と碧色の少し遠い目をして言いました。キプロスは、「そうなのでしょうか。」と言いました。老人は微笑して「飛ぶことに船員の気質が活かされることも大事ね。それに大きな耳の民の船である以上、離陸後は地上から一定の高度を保って飛べることも重要よ。」と言いました。キプロスがわずかに首を傾げると、老人は「刻々と変化する世界の音をよく聞くには、固定的な要素も必要だから。」と言いました。キプロスは、「なるほど。飛行の安定した船であることも重要ですね。」とひんやりと冷たい花瓶にそっと触れながら、こたえました。キプロスは「だからこそ飛行船の役目は、目的地に到達するためだけではなく、飛ぶことそのものにも求めようと思うのです。」と言いました。老人が「どういうことかしら。」と尋ねると、キプロスは、「観測や旅客、輸送だけでなく、飛行船を目にする人もやはり宙空に思いを馳せるような飛行船らしい飛行船がよいと思うのです。」と言いました。老人は、「お客様はとても大切ね。飛行船が飛行船である理由でもありうるから。けれどそんな船には、たとえ離陸時であっても、宇宙に浮かぶときと同じ素敵なエンジンが尚さら必要ね。」と言いました。キプロスは、「その飛行船にふさわしい、みな小気味よいエンジンを三つ四つ積むつもりです。」と言いました。キプロスはコーヒーを一口飲むと、ほっと優しくひと息ついて、老人に「他に飛行船に必要なものはあるでしょうか。」と尋ねると、老人は「さあどうかしら。意味や意義で飛びすぎないことだと思うわ。」と言いました。壁にはいつのまにか「飛行機を飛ばす方法」という題名の絵画が架かっていました。