The little garden in a village around the space.10.

その日、キプロスは読書や少々の書きものをしたあと、やはり宙空彼方をまるい小さな窓から眺めていました。宙空はあくまで青く青く、澄んでいましたから、大きな惑星の白くまるいかげも、ゆったりと航行する大型の飛行船や、大型船よりは細やかに速く動く小型の飛行艇の姿も、遠く近くに見ることができて、塔の先には賑やかな光景が広がっていました。「この前はあれだけの暴風雨だったのに。」とキプロスは思いました。塔に程近い中くらいの明るい黄色の飛行船の甲板では、みなお揃いの真新しい藍色の船員服をパリッと身にまとった学生の一団が方位盤を見ながら、あちらこちらと走り回っては訓練をしていました。黄色の飛行船と重なるように優しげな流線形を描く赤色の飛行船がふんわりと浮かんでいました。老人は小さな眼鏡を掛けて、七色の毛糸で編みものをしていましたが、やがて少し疲れてきたのか、窓辺のテーブルに紅茶と透きとおったグラスに盛った苺を用意して、キプロスを呼びました。「今日はとてもよいお天気ね。」と老人は赤々とした色あいの紅茶をカップにたっぷり注ぎながらいいました。キプロスは、「そうですね。」といいました。けれど、あまりに気持ちのよい宙空であるので、かえって何か言い添えたくなって、「それでも西南西、55度の位置付近に砂塵が発生していますね。」と言いました。南の国の更紗に置かれたキプロスの手の中のカップには、ふんわりとした香りの赤い液体と、フィルターを通り越したちょっとの茶葉がまだくるくると回っていました。老人は微笑して、「そういえばそうね。」と言いました。そして、「けれど、砂塵のようなノイズがあってこそ、青い宙空がより映えるというものね。それに砂塵があってもこの宙空の青も光も届くわ。」と羽製の万年筆を手に取りながら言いました。西北の方角には白い雪を纏った山々が連なっており、この果てしない宙空のなかで、塔の存在する空間を知ることができるようでした。キプロスは小さなスプーンで砂糖を掬って、カップにさらっと加えました。カップの底に沈みかけた紅茶の葉は、赤い液体の間でかき混ぜられて、丸い飛沫を立てると再びくるくるとまわり始めました。キプロスは、衛星がいくつか周りをまわる惑星を眺めて、「今日はあの惑星もよりはっきり見えますね。」と言いました。老人は「そうね。とても優しい白の惑星ですね。」と言いました。キプロスは「最近は、私達のいる惑星や、その他の数限りない惑星が、点在することだけが取り上げられていますね。」と言いました。老人は、「一昔前の航海時代では、どうやったら向こう側の惑星に着けるのか、その惑星からは何が見えるのかがおもな話題であったそうよ。どうやら現在はすこしの停滞の時代のようね。」といいました。老人は塔の南側にみえる惑星のひとつを指で支えるようにしめして、「惑星を孤立した球体とみるのか、航空網のひとつの目とみるのかは大きな違いですね。」といいました。キプロスは「光や風による通信技術の発達が、向こう側の世界への興味を減らしてしまうとすれば、それは哀しいことですね。」と言いました。老人は、「これから飛行船の着く惑星はどれも、未知の領域に満ちていることだけは前もって理解しなければいけないようね。」と言いました。キプロスは、「私達の惑星の元で、長足の進歩を遂げる宙空を飛ぶ方法は、次に何をみつけるのでしょうか。」といいました。