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A fruit tree at the base of the mountain.11.

葉っぱはあらしがどこかに引いたあとも、しばらく緑色の絨毯のもとでのびていたのでしたが、火山の向こうの祖先の森の景色もみるようにとの手紙が届いたので、ちょっとでかけることにしました。その場所は、「月の信託」と呼ばれる、真夜中に悠然とあらわれる「湖」だというのです。葉っぱはこの湖にいって、ゆるやかな樹林帯のつくりかたを教わろうと思ったのでした。葉っぱが山々の稜線からその高原にやっと歩いてきた頃には、一帯は既に盛夏の項を過ぎて、秋のシンとした大気の衣を纏っていたのでした。ゆっくりと陽光から月光の景色にかわる様子を、葉っぱは巻貝を耳にあてながら眺めていました。葉っぱの肩にはいつのまにか蝸牛がとまっていました。ただ枝葉を広げただけでは大陸の向こう側まで、あるいは深い海の底まで果実を届けることはできまいと葉っぱは思ううち、いつのまにかうとうとと眠りこんでしまったのでした。気づくとあたりは深夜。先程よりもずっと静かになって、風が優しく草木を撫ではじめました。葉っぱが座っている場所から遺跡が見えて、そこには彫刻の仮面の像が立っていました。それから、梟の鳴き声が静寂の深い深い水底から耀る小石を拾い上げるように響いてきました。葉っぱが目を遙か前方にむけると、藍色の宙空に浮かぶ雲の狭間から降る月の光が樹林帯のあちらこちらを照らしだしていました。月の光の降る場所はいずれも青くやわらかく輝く湖の水面のような輝きでみちて、中央付近の雲に遮られた部分は五つの島とそれぞれをめぐる回廊のような濃紺の像をなげかけていました。湖だ、と葉っぱは気づきました。月光は一度張りつめるように辺りを鮮明に照らしだしたあと、まるくゆるやかに和んで広がっていきました。月影と星雲の彩りはどこにでも顕れることができるのだろう、けれど今日この場所はとりわけ美しい、と葉っぱは思いました。