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A fruit tree at the base of mountain.23.

今こそ気球の時季(とき)だ、と葉っぱのジョルジョは思いました。生命が命脈のただの吹き溜りでなく、価値の紡ぎあいならば、ちいさな樹も浮かぶことでしょう。東の山脈の麓で見つかった古代の港の遺跡からは、宙空は星と海と雲からなり、雲の一つの貌が船であったと刻まれたマストも発見されています。帆に機と気をあつめて浮かぶものこそ船と呼ばれ、船を知るひとを船はのせたのです。霧のなか、藍色の波間に浮かぶ白い帆船、漂うようにゆっくりと泳ぐ鯨。飛行船ならば、時と場所、人の在処にふわりとよりそうことができるはずです。己の凍える咆哮すら忘却にのみこむ魔獣イグナーを避けて行くこともできます。宙空の鏡があればもう迷うこともなく、休息は回航と邂逅の中にこそ存在するのです。 葉っぱはちいさな飛行船からつくることにしました。

 秋をむかえる森をめぐる丘の街の空にも、星と雲、瞬きと悠久の光景が遙か遠くまでひろがり、街からゆるやかにつづく幾筋の街道と地平線の向こうでそっと溶けあっていました。