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A fruit tree at the base of mountain.20.

蒸し暑い夏の日のことでした。葉っぱのジョルジョが部屋で休憩していると、なにか足音が聞こえてきました。机の上のブルータスの鈴も鳴っています。その足音は、これまでも聞いたことのある音のようでしたが、葉っぱはそれでも怪訝におもって、小さな辞書に優しく手をあてて心を澄ましました。辞書はパラパラと項を繰って、ある白紙の項にいたると、ふわりと文字を浮かべました。その辞書は、街の本屋でよく見かけるものと一見なにもかわらないのでしたが、説明書によるとある世界の端っこ、あるいは触覚であるそうで、疑問に答えることもできるようなのです。小さな辞書によると、その足音は、どうやら「イグナー」という未知の怪物のものであるようです。「イグナー」は虚無からうまれた「こがらし」の眷属、「あらし」の一族で、生き物に潜み、生き物の恐怖を糧として、「過去にとらわれているが、歴史を理解しない。」と説明されています。怪物は「グアガガー、グアガガー」と威嚇するような、自分を確かめるような音を発します。葉っぱは、「あなたは誰ですか。」と尋ねると、怪物ははっと気づいたように顔をあげるのでしたが、それでもすぐに怪物に戻り、「過ぎ去っては、またすぐにやってくる。かきまわしてはかきまわす。もうそれしかない。ああこの瞬間にも、わたしこそが現在であることに気づかされる。」といいました。葉っぱは、辞書に手を置いて意識を高めると、手元のランプをいっそう強くつけました。樹木でも動物でも、生きることは暗闇に対してあかりをともすことでもあるのです。そして、葉っぱは引き続き、記録をとることにしました。