A fruit tree at the base of mountain.29(改題予定)

葉っぱのジョルジョの半透明の飛行船は、砂漠を越え、真夏の熱風をくぐり、宙空(そら)のなかの塔の街にやってきました。葉っぱも飛行船もだいぶ熱をもち、ひと休みすることにしました。街には海や森の豊かな恵みが集まり、生きものたちが行き交い、塔の界隈の路地や店などはとくに賑わいをみせていました。医学と農法に関する魔術の進んだこの街の一角のカフェで、葉っぱは静かに古文書や新しい魔法書を読んでいきました。そして、葉っぱは、「節化(ぶし化)」という恐ろしい怪物を知るのです。複数の魔法書によると、「節化」とは世界、とくに東方に散在する不可視の病の一種で、成木程まで大きくなったちょうどその頃、あるいは周期の安定する時季に、節の一部が硬くなりクネクネと曲がっては無造作にのび、ひどいものでは刀や槍のような突起が胸や背中のあたりにはえるのです。真っ直ぐであることが取り柄である檜族などでは、およそ禍々しい気配を帯びるもののようです。無論、「節」そのものは脈々と続く木々のほんの一節、成長の狭間、ある種の美徳。しかし、「節化」は中世末期の武者の亡霊。時と場所かわっても何かを生むことはないのです。この病に罹ると、ここぞという時に、顎はあがり振りまわしても当たらず、重なりかぶせても先まで行き届かず、やがて突然破裂するという具合。魔法書の一つには「この亡者、全身前例の鎧を纏い、上衣の擦れ音をめで、影踏みを事にする。」とも書かれています。けれどもこれも不可視の怪物、虚無の係累。そうは簡単にその姿をあらわさず、かえって手に取られやすいほどで、影に巧妙に擬態しては宿主が弱るそのときを待つのです。葉っぱのジョルジョは魔法書をさらに丁寧に読んでいきました。魔法書の末節には「心身健全。意思。ときに心を醒ます。」と記述されていました。宙空には銀色の月がまるく輝き、街には黄色いちいさな明かりがともっていきました。そうして、塔の鐘が夕刻の音をゆっくりと刻んでいきました。