island~an extract from a hidden ship`s log〜18.miners

秋の朝はひんやりとしていて心地よく、船員は背中からやわらかくそよぐ風にそっと促されるようにして、一歩一歩路を進んだ。船員の瞳は明るく澄んで、持続的に見開かれて、周囲の景色を末までしっかりと映しているようだった。胸のポケットの位置にはあの平たくて、碧く密な肌さわりをした手鏡が武具を結わえるほどの強度の黒の革製の紐できっちりとくくりつけられていて、前方の晴れた空の最も青い部分と秋の木の葉の彩りを真ん中に映しては、船員の歩みに合わせてゆっくりとあいづちをうつように左右に規則正しく揺れていた。その革製の紐にはいつのまにか小さな白い鈴が縫いこまれていて、船員の歩みとそれに伝う手鏡の揺れに合わせて、シャラリシャラリと時より微かに響きを返した。船員が尚も路を歩いていると、それほど広くない土地の真ん中に大きな洞窟があいていて、その周りで男たちが何か作業をしているのに出会った。船員がよく見ると、ここは坑道でもあるようだったが、中ほどにある坑道から鉱物を地上に運んでいる者はむしろ稀で、大方の男たちは隣の敷地近くの場所に尖った大きな金属製の杭を大槌で打ち込んでいるのだった。その騒音は尖っていて、間隔も狭く、船員はみなが耳が痛くならないものか不思議に思った。船員がその中の一人に、「恐れ入りますが、あなたは何をなさっているのですか。」と尋ねたが、男は船員の声が聞こえないものか、相変わらず作業に没頭していた。そればかりか、作業を続けるにしたがって男の目は細く尖り、視野もますます狭くなるのと反対に、杭を打つ手はどんどん力強くなっていくようだった。船員は男の眼の前まで歩み寄って、「あなたは何をなさっているのですか。」と大声で叫ぶと、男はやっと目をすこし開いて、「ああ、私は坑夫である。」と言った。船員は「坑夫であるあなたのお仕事は、鉱物を採掘することではありませんか。」と言うと、男は怒りに目を細めて、「坑夫が杭を打って何が悪い。」と言った。船員が「ボーリング調査をしているのですか。」と尋ねると、男は笑って、「もう坑道があるのにそんなことしないよ。これは隣の土地からの侵入を防いでいるのだ。さあどんどん杭を打て。お前も突っ立ってないで手伝ったらどうだ。」と言った。船員が「いや遠慮します。それに隣はパン屋ではありませんか。」と言うのを男は浅い呼吸のまま聞いていたが、船員の言葉が終る前に「君は時代というものを理解できないようだね。最近のパン屋は石炭の窯でパンを焼くのだそうだ。そして、この土地からは石炭が採れる。私は外敵の侵入に対して敢然と我が信念を貫いているのだ。」と言った。船員は「パン屋はパンを作るのがお仕事で、石炭を掘ることとは異なるのじゃありませんか。そして、ある行動の成果や付加価値を応分に分かち合うことが仕事というものではありませんか。」と言うと、男は「私は坑夫だということがまだ分からないのか。坑夫の仕事は鉱脈から、鉱物を奪うことである。それも効果的により強く。そして君は知らないと思うが、鉱物とは有限なのだ。」と言った。船員は「そうですか。しかし、私の読んだある本によると、鉱脈の広がりは土地の区画とは、あまり関係がないそうですが。」と言うと、男は「煩い。もう私は杭を打っているのだ。口では何と言おうと、打ち抜くことが男だ。こうなれば正確な境界線など関係ない。外を回ってもかまわない。」と言った。そこにもう一人の背の高い男が現れて、そばに鉱物を詰めた麻の袋を置くと、少し腰をかがめて「その仁は絵に描いた餅の話をしている。それでは長くは持つまい。我々の郷の者ではない。異邦人でないか調べましょう。これは踏み絵が必要ですな。」と耳元でひっそりと言った。一人目の男は「そうか。しかし、君、この仕事は実際には鉱脈が荒れるのを助けたことにはできまいか。」と背の高い男に囁いた。船員はこの場所を後にすることにした。