Long time no see but little invisible1.a treasured sword in a family?

昔々まだ空と地の境が曖昧だった頃、ここから幾つか山を越え、海を渡ったあたりのお話です。当時この国は人間の歴史から見ればほんの一時のことなのでしょうが、長い平和の時をむかえておりました。この男が成人を迎えようとする頃、親が「お前は山で遊ぶのがとても好きだね。それに腕は短く、そして太い。この斧を使ってみてはどうか。」と、街で買ってきたばかりの最新式の斧をいくつか渡しました。男はとても喜んで、他にすることも見つからなかったので毎日その柄の長い大きな斧で薪を割って暖をとって暮しました。やがて斧を手に入れて数十年がたった頃、この国とさる国の間で戦争が起きて、男の息子が召集されることになりました。出発のある日、息子が背負った荷物に トランペットと望遠鏡があるのを男が見つけて、自分の斧を渡してこう言いました。「この伝家の宝刀をもっていくように。」と。息子は「私は今回が初陣ですし、馬を扱うことができるので馬屋番か、あるいは輜重隊に配属されることになりそうです。だから連絡用のトランペットと、物見のための望遠鏡をもっていくのです。そして、ロジスティクスを学び、将来は参謀を目指すつもりです。」と言いました。男は「何を軟弱なことを抜かす。近接戦闘こそ戦争の華であり、世に出る道である。前線を志願したまえ。」といってトランペットと望遠鏡を受け取りました。息子は、斧を手にとって何度か振ってみると「どうも腕の長い私にはこの斧は、しっくりきません。懐がお留守になって心許ない。」と言いましたが、男は「その不安があってこそ、最初の一撃に全てをかけられるのである。目の前のものは即ち薪である。それが男であり、乾坤一擲とはまさにこのことである。」と言いました。息子は「こんな大ぶりな斧では混戦で味方にあたりかねない。それに次の一撃までだいぶ間が空いてしまうのも不利です。」というと、男は「その間こそ我が国の文化の真髄である。崇高な文化を冒涜するとは何事か。それはそういうものだ。」と言いました。息子はその斧と、靴箱に放り込まれていたいつの頃作られたか定かでない、古ぼけた望遠鏡をひそかに鞄にいれて旅立っていきました。半年を過ぎても、1年を過ぎて戦争がひとまず休戦が決まっても息子は男の許には戻ってきませんでした。そして、休戦から2,3カ月立った頃、疲れた様子の兵隊の一人が、男の前に現れて、あの斧を手渡すと、「息子さんは・・・」と言いかけました。男はたいへん喜んで、目の前の兵隊の話を遮るって、こう言いました。「あの戦争を乗り越えるとは、見事な斧である。やはり伝家の宝刀であり、私の選択と主張に間違いはなかった。」