a beaver build up a little public garden.5.the night-side on the sky

エアフィールド・スミス・ジュニアは夜空がもっと見たくなって、クローゼットの中のベージュのトレンチコートを背中から羽織り、紫と青の糸で縞状に編まれたマフラーを首に捲いて、壁にかけた緑色の小さな帽子を頭にのせて外に出ました。外の空気は夕方よりも一段とひんやりとして、彼の耳の奥にシンとした響きを返しました。藍色がかった空は静寂の中でどこまでも明るく澄みわたって、それでもモコモコとして少し細長い羊雲の群れが、柔らかく透明な月と遥か彼方の星座の光をやんわり身に纏い、まるで翼があるかのように西の空のあたりにふわふわと漂っていました。時の経過とともに、平野のあちらこちらに点在する大小の灯火の集まりは少しづつ夜の静寂な帳の内に紛れて、その合間に空の星は尚いっそう輝きを増していくようでした。夜というのは、会話と眠りの安らぎのなかで、昼の間に地上の動物や人間、草木や湖や海の内側に蓄えられた想いや願いや記憶が、元からの空にみな揃って優しく溶けあいながら小さな輪をつくり、今度は相互に縒り合って、やがて明日の世界になることかもしれない、と彼は思いました。南の方角には小さな籠を抱えて花摘みをする女性達、弓の形をした琴を奏でる兎、少し背の高いオレンジの木のそばで束の間の休息をとる武勇を誇る古代人たちの星座たちが今夜も瞬いていました。これも遥かな星の恵み、歴史の彼方と今のこの場所を結ぶ天体地図のようです。彼はきっと星の光の届くところまでが世界で、だから夜は世界を外側に押し広げてくれるのだと思いました。エアフィールド・スミス・ジュニアは、飛行船の刹那の軌跡が所々で小さく弧を描き、やんわりと交差し合うこの空をもう少し瞳に映していることにしました。遠く空と地、陸と海を隔てるところにある山脈の嶺嶺は雪のためか幾分白く、間に横たわる平らな野原や深い森、煉瓦作りの村々を通ってこの郷近くに渡る風も冬の訪れを前もって伝えているようでした。