Long time no see but little invisible.8. a strange gatekeeper

昔々まだ空と地の境が遠く曖昧だった頃、鐘の音を美しく響かせる尖塔が空高くそびえるこの街から、山脈を幾つか越え、海を渡ったあたりのお話です。弓なりに弧を描き、とても大きな山を遠く望む湾の端に、とても美しい街がありました。夏の温かい気候の中で、この街では何か祭りの準備であるのかどうか、街人が大時計の扉を開けて、中央の摘みを調節したり、街灯をきれいに掃除したりしていました。この街のある街の通りに、いつのまにか門ができていました。その門には数人の門番が立っていて、通り過ぎる街のひとをなにやら探しているようです。そこに一人の男が通りかかりました。男は帽子を斜めにかぶり、淡いグレーのサングラスをかけて、ジャケットを肘まで巻くっていました。門番は「君はなんて格好をしているのだ。ここを通すわけにはいかない。」と言いました。男は「なんでそんなことを言うのですか。ひどいじゃありませんか。私はここを通り過ぎるだけで、ある大切な会合に出席しなくてはならないのです。」と言いました。門番は「だったら、ここにその帽子と色眼鏡とジャケットを置いていけ。帽子と色眼鏡とジャケットが残るか、それとも君がここに残るのかのどちらかに一つだ。それこそが正しい。」と言いました。男は「ずいぶん急で一方的だ。会合にでるのもやめろというのか。」と言いました。そこにこの街のひとが通りかかって言いました。「あなたは何をしているのですか。」。男は不機嫌に黙っていました。門番は「私は門を司っているのです。」と答えました。街のひとは「帽子と眼鏡とジャケットがいけないのですか。品物自体は悪そうじゃありませんが。」と言いました。門番は「もちろんですとも。しかし着こなし方がいけません。」と言いました。街のひとは「確かに私が見ても美しくはないようですが、それが門を通ることに関わることでしょうか。」と言いました。門番は「もちろん。異端者を通さないことほど門番の役目の重要性を発揮できる機会はありません。違いを把握することこそ最も手軽に門やこの街自体の重要性を主張できる行為なのです。」と言いました。街の人は「中身は把握しないのですか。」と言うと、門番は「内面を把握するのはとても時間も手間もかかるし、君、思想を取り締まることは暗黙に禁止されている。それにここだけの話だが、もし内面に奇異や脅威的ななにかが見つかったとしても、外面の問題として処理することこそ簡単で、門番の勤めでもあるのは周知の事実だ。よって私は職責を果たしているにすぎない。」と言いました。街のひとは、しばらく黙ってからこう言いました。「この門は、何の役目をしているのでしたか。」。門番は、「街の正門はとてもたくさん人が通るのでとても忙しく、なかなか取締できない。そこでこうしてここにも門が作られたのだ。」と言いました。あの寛大な趣のある湖の水の最初の一滴が空から丸く零れて、ひんやりとして深く静かな森のすらりとした木の葉のひとつをそっと揺らしたのはそれからまもなくのことだということです。この葉は弓のようにしなり、雫は鞠のようにはずんで、やがて清流となり、谷間を緩やかに縫って、大陸の中央にある火山が熱く爆ぜた後のカルデラに注いで湖になったと伝わっています。その小さなとても深い湖は、広大な宇宙のただ中にあって、寛大な趣で微笑みながら空の月をみなもに青く受けて、天の恵みを顕しているそうです。そして今日も尚その澄んだ大きな瞳で、夏には空高く昇る黄色い太陽を映し、秋には山々の様々な色彩と感触の木の葉を思慮深く受け、冬には雪と氷の紋様を綾なして、春には森の生えそろう青葉とそれを支える木の根と幹の揺り籠となっていると聞こえています。