The simple tales to hold the earth by its tail.3.a strange hamburgershop.

昔々、東の国由縁のある船団が遙か西の国の港を巡り、人や動物や智恵の書物を載せて、やがて南の国の方角へと向かった際に、ある月夜の晩に遠い洋上で鯨の群れと遭遇したと航海記録に残した頃のお話です。
小高い丘の稜線に格子状の硝子細工の枠組みを揃えて丁寧に無数に重ねたように発達した街がありました。この街の中央広場の辺りにとても繁盛しているハンバーガー店があったそうです。その店は朝も昼も、夜さえも人と料理で満ち溢れておりました。ある晴れた日のお昼頃、ひとりの男がこの店にやってきました。男は席に座るやいなや店員を呼んで言いました。「このハンバーガー屋はたいそう賑わっているようだね。その訳はハンバーガーにこそあるというわけだ。君、この店で売れているハンバーガーをくれたまえ。」。まだ若い店員は、「それならば、羊肉バーガーですね。さっそくお持ちいたしましょう。」と言いました。男はコホンと咳払いをして「そうしよう。」と答えました。やがて店員は紙の袋で大事そうに半分ほど包んだハンバーガーとジャガイモのサラダをお皿にもって男の席まで戻ってきました。店員は「どうぞ。」というと、男の目の前にそのお皿を置きました。男は、あごをわずかに体の全面につきだしながら、視線をそのハンバーガーに注ぐと、次の瞬間には店員の顔を見てこう言いました。「君。このハンバーガーはなんだね。パンの部分よりも羊肉がずいぶんと少ないじゃないか。私にいわせればこれは邪道だね。パンと羊肉の厚みの比率は2対1を下回ってはいけないのは常識ということも知らないのか。どうだね。」。店員は「当店はハンバーガーをおいしく味わっていただくために、このような形でハンバーガーをお客様にお届けしております。このけっして大きくない店の佇まいで、一日300個も売れる品でございます。一度味わってくださいませ。」と言いました。男は「なるほど。君ね。外観は味を規定するという鉄則も知らないようだね。味わうまでもない。別のもっと厚い羊肉だけをくれたまえ。」と言いました。店員は「恐縮ですがお客様、当店はお客様お一人につき、一日お一つを提供しているのです。」と言うと、男は「そうか。」と言うと、今度はハンバーガーを両手で強く握りはじめました。店員が「何をなさいます。そんなことをなされば、このハンバーガーのせっかくの食感が損なわれてしまいます。」と言うと、男は「君。まだ言うのかね。質量、つまり重さこそが食感を決めるということも知らないようだね。ひとは舌でハンバーガーを味わうのでなく、じつは胃の重さでおいしさを知るというわけだ。ようするに客観的に評価するには、こうやってパテや肉にふくまれる空気を除外することが必要なんだ。」と言いました。店員は「おやめください。そんなことをなさっては、食感ばかりか、なかにつまっているオニオンやケチャップがでてしまうじゃありませんか。」と言うと、男は笑って「それこそ私のねらいであるわけだ。できる限り絞り上げて、あらぬ方向に飛びださせるこの突発性というか、偶然性こそが、勢いがあってこのハンバーガーの性質をよく示すものである。」と言いました。男は既にカチコチした固まりをやおら自分の鞄から取り出した天秤で測ると、なにやら重々しくうなづいて、「やはり私の店のほうがおいしいようだ。」と叫ぶと、「さらにハンバーガーの重さを増やさなくては。」と呟いて、おいしそうに羊肉のハンバーガーを食べる人々には目もくれずに意気揚々と店を後にしたということです。この北の国の話を偶然に通りかかった旅人が聞きつけ、春夏秋冬、千里万里を語り継いで彩りも密な絵本になり、皆でひろく読むことができるようになったのはあの船団が南の国の港についてしばらくしてからだということです。