The simple tales to hold the earth by its tail.5.a strange merry-go-round.

昔々、遙か西の国の港を巡り、やがて南の国を目指した船団が、秋から春にかけて大陸沿いにながれる風にのって航海し、遙か遠い洋上で、月夜の晩に白鯨の群れと遭遇したとある商人が愛蔵する航海記録に残っている頃のお話です。
 ある中くらいの島の東の果てにその島よりもずっと小さな島が一つございました。その島の窪地の一つに十三人の妖精が住んでいました。真夏のある夜のこと、どこからかサーカスの一団がやってきました。サーカスの団長は、窪地の真ん中に座ってくるくると椅子を回していた妖精の手を強くギシッと握りしめて、「これはまわりの島にも、この島にも、君たちにもきっと必要なものであるから、しばらくここに置いてくれたまえ。」と言って催し物に必要な大小の目にもあやな七色の虹で織り上げたテントや動物たち、人形や着ぐるみ、馬車や戦車を置いていきました。窪地のまわりにおもいおもいに宙を眺めていた妖精たちは急に出現した目新しいものたちに目を見張り、小さなかわいい手でピタピタしたり、布で磨いてあげたり、テントや旗を立ててあげたりしていました。しばらくして、ある一人の妖精が、「この大きなぬいぐるみはちょっと邪魔だね。せっかくの青い宙と遠くの海を眺めることができないじゃないか。妖精にとって宇宙と海こそが命の源泉なんだから。」と言うと、熊や鯨の大きなぬいぐるみを時計回りの方向に押し出しました。すると隣の妖精が「君の言うことはもっともだけれど、僕だってお菓子の家で十分だよ。その上ぬいぐるみが来ちゃったら、座るところがないからね。妖精にとって座って大地と同化することこそ呼吸することなのだから。」といって、お菓子の家を押し出しましたが、一人の妖精の力では窪地の縁を越えて、押し出すことなどできません。お菓子の家はやはり時計回りに次の妖精の目の前に来ました。3番目の妖精は、「おいおいお菓子の家なんか僕はいらないよ。いままでだってこの重たい戦車を実は我慢していたんだよ。それに僕はこの南東の位置がとても気に入っているのだ。」と言うと、戦車を押しましたが、戦車はあまりに大きいので、まわりにおいてあったテントやお菓子の家も一緒に押し出してしまいました。4番目の妖精はびっくりして、「急に何をいっているのだ。」と言って、やはり戦車や戦車に絡まった様々なものをがんばって押し出します。やがて、この静かな窪地は妖精が押し出す戦車をはじめとするサーカスの品々が時計回りにまわり、メリーゴーランドのようになりました。すると窪地の中心に座る一人の妖精は、「それならば僕がもっと上手に回してあげよう。」といって魔法の小さなタクトを振りました。メリーゴーランドは時に早く、時に強く廻りましたが、妖精たちの予想とちがって窪地の外にでることはなく、けれど片時も止まることなどありませんでした。妖精達のある者はちょっと目を回し、またある者は中心に座る妖精が動いていないように見えることを憤り、一方で中心に座る妖精もまわりをぐるぐる回るメリーゴーランドの品々で外が見にくくなってしまいました。メリーゴーランドは時間が経つにつれて妖精たちの魔力でますます駒のようにキュルキュルと回転して、サーカスの品々の様々な色彩を宙に溶かしながら、回転する度に窪地の土を削り、窪地は前よりもすこし深く、そしてでこぼこになっていきました。メリーゴーランドの上では、サーカスの品々がひしめきひしめき、みなでごっつんこ。鯨の背中に熊が頭をぶつけ、お菓子の家はもはやテントをかぶっています。そこに窪地で休もうとした旅人がやってきました。旅人はぐるぐる回るメリーゴーランドを少しの間眺めると、メリーゴーランドの上の動物やまわりに座る妖精たちに目をまわさないように外側を向いて座るように言うと、窪地の外側にいた他の妖精にも手伝ってもらって、窪地の端に苦労してたくさん橋を架けました。やがてメリーゴーランドの上で踊るサーカスの品々は橋を伝って一つまた一つという具合に、外に走り出していきました。今三日月の夜に街を静かに走るあの馬車はそのときメリーゴーランドから飛び出したうちの一つだそうです。尚この西の国の話を旅人から船員が聞きつけ、千里万里を語り継ぎ、東の国の絵本になり、みなで読むことができるようになったのはそれから長い時間を経った後だということです。