The little garden in a village around space.6.

明るい光は南西の方から、宙空を行きかう飛行船の速度よりもずっと早くぐんぐん進み、塔のたもとを通過して、塔のてっぺんまで明るい色に塗りなおすと、やがて北東の方角へと広がっていきました。キプロスは塔の部屋の窓辺に立って、この朝の風景を眺めていました。青く澄んだ宙空のあちこちに立ち上る飛行船の白い軌跡に、その飛行船まで人や物資を届ける小型の連絡船の白い放物線が交差して、複雑な形状を描きだしていました。「きっと東に向かうのだろう。」とキプロスは思いました。部屋の中には、いつのまにかコーヒーの香りがして、老人が簡単な朝食の準備をしていました。キプロスは、「今日はとてもよい天気ですね。」と老人に言いました。老人は、「朝は気分を新しくするわね。時の流れは連綿と続いていることは確かだとしても。」と答えました。老人は、「昔、旅をした時にね、」といって、コーヒーをカップにつぎながら、「砂漠の縁の村に立ち寄ったわ。」と静かな声で言いました。キプロスは、「そこには何かありましたか。」と言いました。老人は、「当時はまだ何もなかったわね。」と言って、コーヒーのカップを二つきちんとテーブルの上に揃えました。「村人は砂漠とどう共生するのかについてとても真剣に考えているときだったのだけれど、同時に砂漠を走り抜ける馬車レースを楽しみにしていたわ。」と老人は言いました。キプロスは、「砂漠はそれだけでは空虚な場所かもしれません。目と耳へのある種の空虚さや過剰な重みは、時間感覚や想像力を麻痺させる気がしてなりません。砂漠の縁の村人はそのレースをきっと楽しみにしていたでしょうね。」と言いました。老人は、「そう。競技を見るのが楽しいと同時に、競技への真摯さがよい発想を解き放つ、とある村人はいっていたわ。日々の営みの不断さのなかにあって、凝縮されたものはそれだけで価値があるのでしょうね。」と優しく言いました。キプロスは、「レースに何を投影するかはみるひとに委ねられているのでしょう。けれど、砂漠とはやはり過酷な場所なのでしょうか。」と言いました。老人は、「そうね。けれどその村人は、砂漠こそあらゆる可能性を探る場所かもしれないとも言っていたわ。」と小声で言いました。キプロスは、「その村は今どうなっていますか。」と尋ねました。老人は微笑して「その村にもやはり高い塔が立っているわ。そして田園も。」と答えました。キプロスは「夏にはここでも飛行船のレースがありますね。」と言いました。