A fruit tree at the base of mountain.22.

森をめぐる丘の街も季節は夏。夏の盛りはすでに過ぎていましたが、まだ熱風ふきつける頃でした。熱風の奔流に交じって、不死の怪物にして無知と忘却の徒、イグナーの咆哮も聞こえてきます。怖れることはない、備えることだと葉っぱのジョルジョは思いました。心を澄ませて机の上の辞書を撫でると、現実とは魔力の不断の均衡だとかいう項を必ず開いてとまるのです。数週間にわたり熱気をくぐっていたためか、葉っぱはいつのまにかあちらこちらゆるんでいることに気づき、キュキュップルプルとみ震いしました。それから、森に湧く泉の水でからだをみたし、点検をはじめました。そして、眼鏡や時計、靴や上着に盾、はては筆記具に至るまで、街の店をまわっては丁寧に修理し、またいくつかは新しく揃えました。ひかりはなつまで磨きあげ、闇夜を照らす鏡をつくろうと葉っぱのジョルジョは思いました。その夜のかえりみち、丘のひとつに通りかかる頃には、街の家々にはやわらかな明かりがともりだしました。やがて、藍色の空と夜の静寂(しじま)に教会の時計台は厳かに照らされ、追憶と鎮魂の鐘がゆっくりと鳴らされていきました。鐘の音は森をめぐる丘の街に木霊しながらひろがって、じんわりとしみていきました。