The dove 4.The dialogue

チリエージョと鳩は、広場へ続く坂道の途中のテラスがあるカフェに入った。彼はお店の作りおきのピザのなかから、程よい大きさの四角いマルゲリータ二枚と大きめのカップに入ったカプチーノを一杯注文した。道に大きくはみだしたテーブルに備えられた木のイスに座ると、家々の間から街の城壁とその向こうに広がる丘を見渡すことができた。夏の丘は青々していて、様々なグラデーションを描きながら、地平線の向こうでやんわりと青い空に溶けていた。まもなく若い店員によって食事がわりと無造作にテーブルに並べられると、鳩は彼の膝から飛び上がってテーブルの上に乗り、彼の左隣で特に遠慮することもくピッツァをついばんだ。「ピッツァは食べるんだね。」と彼が聞くと、鳩は「約束だからね。それに鳩であるのもそれなりにお腹がすくんだよ。」と言った。彼はふと北の街での出来事をを思い返そうとしたが、食事を前にして無粋な気がしてまずは食べることにした。簡素な食事だったが、トマトの酸味と薄いピッツァ生地のパリッとした食感は彼に故郷に戻ってきたことを実感させるには十分だった。あっという間に食べ終わり、ミルクと砂糖をたっぷり入れたずいぶんとまろやかなカプチーノをゆっくり時間をかけて飲みをほした後、カフェの壁に架けられた電話を借りて、友達の何人かに近々会えないかと連絡を入れた。友人の一人が明日の夕方何人かで御飯でもたべようとの返事だったので、彼は「もちろん大丈夫。ただ話したいだけだから。」と答えて受話器をもとに戻した。
 カフェをでてから、彼と鳩はまた広場に向かって歩き出した。相変わらず鳩は彼の小脇に抱えられており、おとなしくリズミカルに喉をならしていた。彼がふと道のそばの空き地に目をやると、ベンチにゆったり腰かけた赤いセーターを着た老女が、そばにちょこんと座る白いワンピースを纏った少女に編み物を教え、少女も学校であったことだろうか、なにか身振り手振り交えてとても熱心に話していた。周囲にほとんど注意を払わないその二人のすぐ足下に急拵えの鳥の巣ができていて、二羽の鳥が仲良く和やかに喉をならす傍で卵からかえったばかりの小さな雛が空へ向かって歌うように鳴いていた。「あれは君と同族の鳩かな。」と、彼が尋ねると鳩は「君もだいぶ慣れてきたね。けっこう近い部類じゃないかな。君のいう鳩とは少し違うけれどね。でもいま大事なところだから話しかけてはだめだよ。」と諭した。すこし近づいて眺めると二羽のうち一羽は、たしかに彼の鳩と同じような特徴をもっていたが、もう片方は幾分赤みを帯びていて、とくに翼の部分には、昔、彼が東の国にいた際によく見た古代エジプトの幾何学模様のようなものがびっしりと刻み込まれていた。「あれは東の国からきた鳥じゃないかな。東洋的でミステリアスだね。それに君のような首飾りはつけていないね。君は何か分かるかい。」と彼が小声で鳩に聞くと、鳩は少し笑って「さあどうかな。もし正確なことを知りたかったら、そのテーマで直接会話さないと分からないんじゃないかな。」と答えた。その鳥の子供が今後どんな姿に成長するのか少し気になったが、ただ何もせず仲のよい老女と少女の側にいるのは不自然で、二人の間の鳥たちを眺めつづけることもまた少し失礼な気がして、彼は鳩と再び広場に向けて歩を進めることにした。