2011-01-01から1年間の記事一覧
夜おそくから降り始めた雪は、朝にはあたり一面を優しい白と眩い銀の世界へとかえていました。雪は、街道や地面のデコボコはもちろんのこと、そこら中のイガイガやトゲトゲ、モコモコもおおかた隠してしまって、明るく輝いていっそう輪郭をぼかしていきまし…
楓という楓を彩りゆたかに、紅くあるいは黄色に染めあげた透明な秋の風は、川沿いの木柴で力強く笛の音を奏で、入江で輪舞を踊り、葉っぱの目の前を通り過ぎて、遥か遠く西方へ駆け足で旅立っていきました。葉っぱはシンと冷えた初冬の空気に触れ、キュッと…
星の瞬きから生命が始まるという古代からの伝言が、実際常に真実であるのか、確かめることができるのは遠い未来の出来事であるのかもしれません。まだ若い芽であるその葉っぱですら、いつから自らが葉っぱであるのか、正確なところはどうにも分からないので…
キプロスは、東に向かう数えきれない飛行船の群れを見る老人の瞳に、希望と尊敬、それに不思議な懐かしさのようないろあいが含まれていることに気づきました。キプロスは静かに「飛行船がたくさん出帆する風景を前にも見たことがあるのですか。」と老人に尋…
ジュリエッタは秋の休日のある日、お気に入りの青いワンピースを着て、公園のブロンズ像と四角い枠がシンプルに重ねられたオブジェの前を通って、自宅のアパルトメントと駅の間にあるカフェにいつものように出かけました。カフェの中は、木目も鮮やかな木材…
それはとてもちいさな芽でした。まだとてもちいさく、そして半透明でしたから、はじめのうちはそのおぼろげな萌しのようなものが果たして「芽」であるものかどうか、どうにも判断がつかないのでした。それは空の色を映し、朝陽のように燦燦としたり、青く青…
キプロスは、「空を飛ぶ方法」という題名の絵画をしばらく眺めていました。老人は「まだなにか考えているようね。」といって、だまってキプロスの藍色のカップに二杯目のコーヒーをなみなみと注ぎました。キプロスはひとこと礼をいって、スプーンひとさじ分…
昔々、未知の南の島を目指した船団が、小高い丘と坂の多い港町に寄港したあと、暁に遙か遠く南西に向けて、雪の降る中で針路をとり、今日も尚秋から春にかけて大陸沿いにひんやりと冷たく吹く風にのって、航海していた頃のことです。凛とした藍色の夜空に明…
昔々、未知の南の島を目指した船団が、小高い丘と坂の多い港町に寄港したあと、暁に遙か遠く南西に向けて、雪の降る中で針路をとり、今日も尚秋から春にかけて大陸沿いにひんやりと冷たく吹く風にのって、航海していた頃のことです。凛とした藍色の夜空に明…
昔々、遙か西の国の港を巡り、やがて未知の南の国を目指したという船団が、小高い丘と坂の多い港町に寄港したあと、暁に遙か遠く洋上へ向けて帆をはり、今日も尚秋から春にかけて大陸沿いにひんやりと冷たく吹く風にのってしばらく航海していた頃のことです…
キプロスは、飛行船をつくろうと思いました。ふわりと浮かび、夜は月の海、昼は明るい太陽の宙空を滑るようにすすむ白い飛行船。不思議なことにその飛行船はもうずっと頭の中に愛らしく存在していたようにキプロスは思えました。キプロスは老人に「私には飛…