2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧
船員が目を覚ますと、草原は早足で明るくなって、横になった体勢から頭をわずかに浮かせて空を見上げると、地平線の東の端の方から朝日がまさに昇る頃のようだった。船員は起き上がろうと、枕元を見ると、きれいな銀色の羽が小石で地面に留められていて、そ…
辺りが夜になると、どこからか風がわずかに吹いてきて、船員が眠っているそばの木の中央に優しく触れると、複雑に無数に重なり合った葉と枝に触れて鈴の音のような玲玲とした音色を奏でて通り過ぎた後、しばらくするとまたどこからか戻ってくるようだった。…
空に戻る雨のかわりに、辺りには漆黒の夜がどこからかそっと浸みてきたようだった。船員は歩くのを止めて、眠りにつく場所を探すことにした。背の高い木が路のすぐ近くに枝を大きく広げていたので、船員はその根元に泊まることにした。その深い根元には夜が…
三重四重に遠く連なる山々の嶺から、秋の景色が湧き、流れをつくっては、夏の気配をやわらかく追い、円くひろがりながら、船員の歩く草原の中の路を撫でて海の方にむかって寄せていった。草原を丹念に縫うように進む白い路の先には、なだらかな丘の上に糸杉…
船員が街へと続く路をひたすら歩いていると、背中にざわりとした気配を感じた。船員が振り返ると藍色の長いコートを着た男が白馬に小さな翼が生えたような動物にのって、すこし浮き上がるようにしてやってきた。その男と奇妙な動物は船員を少し追い越してふ…
船員はカフェに寄り、その店長らしき男に「港のある都市についてご存知ありませんか。その道順を伺いたいのですが。」と訪ねた。その男は「よく分からないが、あなたが目指すのがこの里でないのなら、この里には路は一本しか通っていないから、いずれにしろ…
若草色の男は船員についてくるようにいって少しその場を離れると、船員の方をそっとななめに振り返って、「しばらくこのことは内緒にしておいてくださいませんか。」と囁いて、船員が頷くと「あの木はここでは倒されることでしょう。」と言った。船員は「防…
教会の天井の方から差し込む日差しと小鳥のさえずり、人が賑やかに行き交う音を耳に流れ込むので、船員は目をさました。黒衣の男は既に講堂の掃除を始めていた。男は起き出した船員の方を見て、「よく眠れましたか。ちょうどよかった。あと一時間もすれば、…
橋を渡ってすぐ、船員が赤い煉瓦造りの家々の間を抜けると、その教会は突如、目の前に現れた。辺りは夜の闇に包まれようとしていたが、白と黒に交互に塗り分けられたその建物は夜空のもとでもはっきり教会だと分かった。船員が教会の正面にある大きな扉を開…