The little garden in a village around space 9.

キプロスは、東に向かう数えきれない飛行船の群れを見る老人の瞳に、希望と尊敬、それに不思議な懐かしさのようないろあいが含まれていることに気づきました。キプロスは静かに「飛行船がたくさん出帆する風景を前にも見たことがあるのですか。」と老人に尋ねました。老人は「あれはだいぶ以前のことだったわ。私が今のあなたよりもさらに若かった頃かしら。」といいました。塔から見える宙空は青く澄んで、小高い丘の稜線に沿って家々が建ち並ぶ市街地も、あえて凝視するまでもなく、白く柔らかな光をはなっていました。老人は藍色のカーテンを手でつかんでしっかりと窓枠の後ろ側に寄せながら、瞳の色彩をずっと深く染めました。「今とは少し異なって、当時、大多数の飛行船は水平線や地平線は無論、世界の境界線そのものを押し広げ、制覇するのだと宙空の彼方に向かったものだったわ。」と老人は言いました。老人の瞳にはきらきらとした若さと、それからわずかに苦いものがまじったようにキプロスには思えました。キプロスは「その船団はどうなりましたか。」といいました。老人は、「分からないわ。向こうの側の世界にはおおかた着いたのじゃないかしら。航海士の時代などと呼ばれているけれど、当時の飛行技術も相当なものだったそうよ。」といいました。キプロスはゆっくり頷いて、老人の方を見つめました。老人は「けれど、宙空の領域を結果的に広くしたのは、長時間の飛行に耐えたある飛行船の乗組員たちによるのかもしれないわね。」と遠くを見つめながらいいました。キプロスは、「どういうことですか。」と尋ねました。老人は、「その飛行船は他の飛行船同様、惑星の外側を目指しながら、内側の新たな世界にも同時に飛び込んだと理解すべきなのでしょう。内側の扉を開いたのね。真の魔法は、他の民にしろ、我々大きな耳の民にしろ、個々の領域をその領域に応じて、内から外に向けてそっと豊かにしていくことで、総和である宙空を拡大させるものなのでしょう。」といいました。キプロスは「宇宙の真の恵みは、彼らによって私達にも届いていますね。」といって、また宙空を見上げました。キプロスは晴れ晴れとした気持ちになって、「そうして、私達はみな暁月の時代にまた存在するのですね。」といいました。老人は、「そのようね。」とテーブルの南国由来の更紗に置かれた四角い石盤を手にとって、撫でながら答えました。石盤はなおもひんやりと冷たい手触りをして、その表面に小さな文字やら画像がなにか浮かべたようでした。二人は石盤の優しく奏でる音楽の中にしばらく佇んで、それから小さな声で、「貴方の霧が晴れますように。」と航海の無事を祈る言葉を一緒に唱えました。