The devo10-Ⅱ.The picture hanging in the beautiful sky

「鳥の通う路の中でも、とくに空の路はとても大切にしなければいけないと思うのだ。」と彼は言った。鳩は「そうだね。鳥の立場からも言わせてもらえれば、紀元前3世紀ごろからローマ街道が整備されたことによって、物流や人の交流、軍隊の移動が容易になって文化圏や経済圏が発達したように、都市国家が無数に存在する現状のもとで個人が発言することや共同体の意見を本当の意味で集約、創造していく為にも、鳥を使った空の路はとても重要な役割を果たす基盤になるものだからね。たとえ空の路のような透明なものであっても生まれたてのそれはとても繊細で、人の本質的な感情に関係することだからなおさら大切に育てなくてはいけないね。だから、ある種類の鳥が一度にある場所を大量に通って路自体を摩耗させることや、へんてこな鳥が多く通ることによって路自体の存在意義が問われたり、マナーの向上で十分なところに規制がはめ込まれることはどうしても避けなくてはいけないことだね。」と言った。彼は「僕もそう思うよ。」と答えた。鳩は「他にも心配はあるのかい。」と彼に尋ねた。彼は「鳥の飛翔や伝播が自然な気持ちの表れや共感によって支えられていることも理解しているよ。でも、今回の伝播の契機のひとつが北の国の戦闘やそれ以外の陰惨な出来事でもあるならば、ちょっと懸念があるのだ。それはね、あの酒場で見たように、ある状態で一度戦闘を行ったことがある鳥は度合いの差はあっても、いくつかの特定の条件さえ整えば、全ての前提条件が整わなくとも戦いを「再現」してしまう普遍性も持っていると思うのだ。今回の飛翔した鳥たちの中にもその火の種をもっている鳥が少数混ざり込んでいる可能性も否定できない。』と言った。鳩は「そうだろうね。鳥そのものは断片的で、即時に全てに遍く渡る性質ではないから、方向や定義が分からない段階ではおさらそうだろうね。特に最近では、従来の壁の中の人々が安易にそう信じるほど、鳥にとって街の城壁や国境や地域を隔てる海さえ絶対的な障害ではないからね。壁の中だけでうまく操作できると信じて造られ、通常は檻に入れておく頑強な生き物にいつのまにか羽が生えて、謬って外に飛翔してしまう危険も高まっている。密閉環境は本来持っている要素をよい面でもそうで内面でも増幅する効果を持つからね。それに鳥の戦いは歴史上常に、政治の一部であり、実戦の先触れであり、その残照であるばかりか本質的に実戦の一部でもある。通常はその資質は鳥の中に眠ったままだとしても、局地的に実戦に至った鳥の戦は、他方でも鳥の戦になる普遍性を獲得したのと同じだと僕も思うよ。どこかの内戦が必然的に拡大するのも劣勢になった方が鳥の力も使ってその時点で外部の力を内側の戦いに引き込んでしまうことにも原因があるといわれているしね。それに君も知りたいのでしょう。」と答えた。彼は「もちろんそうだね。じつはね、僕が君の言動や姿から想像する背景に存在する可能性のある鳥の集合やシエナの街角やバールやリストランテで見た鳥から想像する背景にある鳥の集合、最近の出来事やまわりの人々から想像する鳥の背景の集合が重なる部分と全くそうでない部分が存在することも少し気がかりなのだ。鷹が僕に説明できないという君の話にもあったように、僕も外の状況を仮説として分かっているに過ぎず、全部はとても分からないからね。とくに戦闘はその領域以外を見ることは困難にするし、そういう場合は鷹使いが鷹を上手に操作しようと懸命になることが普通でもある。できれば状況をもっとつかんで対応したり、その先のことを考えたいと願っているよ。僕は今のところ科学者でも、ましてや宗教家でもないから、絶対的な事実や真理という部分から幾分距離があって、確かめるのに常に第三者や友人をとても必要としているからね。」と言った。鳩は「でもこれは非公式にどこかに渡っている鳥だから、あの浮き鳥に多少の関係はあるにしても、あの浮き鳥そのものや公式な方法を選ぶことはどうやら無理そうだよ。さてどうするつもりだい。」と聞いた。彼は暫く考えると、「首飾りのある鳥について説明する手紙を送りたいと思うのだ。そういえば君は飛べるのかい。」と聞いた。鳩は「僕だってこれでも鳥だからね。ほらこの通り翼だってある。それに場合によっては浮くこともできるよ。」と言った。彼が驚いて鳩を見ると、鳩は「僕は手紙そのものを届けるために飛ぶよりは浮くことの方がじつは得意なのだ。」といった。彼は「その、あの浮き鳥に比べればずいぶんと小さいけれど、大丈夫なのかい。」と聞いた。鳥は笑って、「巨大なものだけが浮くわけではないよ。意識してもらえないと人の目に見えることがかなり難しいだけであってね。でも僕が誰かに見てもらう為に浮く場合、手紙を送る方法は別に考えてね。」と言った。彼は微笑して鳥の頭を撫でた。鳩はくすぐったそうにして、「けれど気をつけないといけないよ。海に海流があるように、鳥にもそういうものがあって、全く知らないひとが君の鳥についての話を手紙で読んだとして皆目検討がつかないのは普通のことだからね。そうなると控えめに言ってちょっと変わっていると思われるからね。」と鳩は言った。彼は、「そうだね。もちろん手紙は手紙としても送るつもりだよ。君のためにもね。」と言った。鳩は少し笑って「今までは物事の慎重な部分を考えたけれど、より積極的な部分を考えれば、現在の状況がある程度の洪水部分を含むとしても、洪水は普段なら届きそうにないところになにかを運んでくれたり、洪水後の流れそのものを変えてくれることもあるから、そこでお友達に会えるといいね。だけど、繰り返しになるけれど既に首飾りのある鳥を受け取ったひとに上手に手紙が届くかどうかはかなり難しいよ。」と言った。彼は鳩に「そうだね。君が浮くことや僕が手紙を送ることは無数の断片化された波紋が重なりながら広がっていく既存の状況に載せて、慎重に無理なく送り出した笹舟を波紋から波紋を伝って、丁寧に届けていくようなものだからね。君と僕の役目を果たすことすら、鳥と人の助けが必要なのには参ったね。」と言った。そこで彼はふと疑問を持って「そういえば、僕たちは浮いている鳥とどうやって連絡したり、あるいは連絡をもらったりできるのかな。」と鳩に聞いた。鳩は視線を空に戻して、「ああいう浮いた巨大な鳥は特別だよ。街のどこにいても、学校にいても、本を読んでも、ご飯を食べていても、寝ている間さえすぐ近くにいるようなものだからね。」と答えた。彼は鳩に「ではもし君が浮いたとして、僕や誰かが君と連絡をとるにはどうしたらいいのかな。」とそっと尋ねた。鳩は翼をすくめて「それは当然手紙か電話だろうね。君ができるならもちろん跳んできてもいいよ。」と言った後、彼が無言なので、「いや待ってね。どうしても当分他の誰にも安全な方法がほしいというのなら、とっておきの方法があるよ。」と言った。彼が「それはどんなものだい。」と鳩に聞くと、鳩は「僕は桜に縁が深くてほとんど本能と化しているからね。昼間なら大きな桜の木の下で、夜なら桜色のキャンドルを灯して呪文をそっと唱えるというものだよ。けれどこの方法だと、伝えたいことが正確に相手の方で再現されることについて、天候の状態やタイムラグや騒音の度合い、辞書やそもそも僕のアンテナが上手に開いているかという条件があるから、確実性はずっと下がるけれどね。それでもとても安全な方法だと思うな。けれど、もし不通だったり、再現されたものが期待したものと違っていても怒ったりしないでね。それは誰のせいでもないのだからね。」と言った。彼は「素敵な方法だね。どんな呪文なんだい。」と聞いた。鳩は「呪文自体はとても簡単なのだ。頭の中で、宛先と伝えたいこと、そして件名やテーマもあるととてもいいのだろうね。それから送信者の名前を最後につければ完成だね。できたらやさしい気持ちやユーモアを込めてね。けっこう気持ちだけが届いてしまうこともあるから。でもなんだか面倒だったら、普通に話すだけでもいいよ。僕の方でがんばるから。」と答えた。彼は感心したが、そんな智慧が存在することに今更ながらとても驚いた。彼は「他にはなにか注意することがあるかい。」と聞いた。鳩は「伝わるとお互いに信じられることかな。僕も慣れていない方法だからね。それにあまりに長文だとお互いにとってたいへんかもしれないね。そして会話はテーマに関して相手の辞書と自分の辞書を照合しあう作業でもあるから、お互いに無理のないテーマや内容の方が受け入れやすいことは鳥と話す場合であっても普通の会話とかわらないはずだよ。」と言った。