The baddhist image archaically smiles. 3.an omen

翌日の午後、古寺からだいぶ離れた広場で昨夜の男達が『あの仏像は我々にあの物達を懲らしめよ。」と言っていたぞ。』とひそひそと話していた。側では娘達が何人かで連れ立って、「今日もあの仏像の側で、遊びましょう。」と笑いあっていた。そこに、幾人かの旅人やってきて村人達となにやら話している。「そういえばあの古寺の前に置かれた仏像だが、東のいくつかの村で聞いた話では、とある名工の作品で何度も苦難を切り抜けた御利益のある像だそうな。」「それにある東の村人の話では何でも心眼をもっているらしい。」「ほお、心眼とな。」「ある田舎侍などは企みをことごとく見抜かれて難儀したらしい。」「いや田舎侍だけではないらしいぞ。」「いやはやそれは困りましたな。見られたくない部分など幾らでもありますからな。さっそく他の村人に伝えなくてはなりませんな。」「いやいやそればかりか、私の聞いた所では、何かに喩えて仏像に話しかけると、答えが得られるそうですぞ。しかし、相手は仏像、けっして話題そのものを伝えてはなりませぬ。あまり悟られては祟りがあるかもしれませんからな。」「そうかもしれませんな。仏像に悟られてはたいへん。何に化けるかしれたものではありませんな。何事も微妙な案配がよろしい。」「伝えるだけでなく、仏像からおのずから答えを導くとはやはり、東方由来の仏はなかなか新奇でありますな。」「しかし、ある話では仏像から、微妙な具合で得た話を仏像の聞こえないところでするといっそう御利益があるらしいですぞ。なにぶん神仏の類、真偽のほどはまずたくさん試してみなければ分かりませんな。」「そうですな。一人で試すのは心許ない。しかし全員まとめてというわけにも参らぬ。目立ちますからな。ここはこっそりとするのが肝要。」「それに仏像が密かにどこかにしゃべるという話もある。確かめなければなりませんな。」旅の男たちのなかには東の村の不思議なまるい図柄の脇差しがキラリと光を放っていた。それから暫くの間、村人はそれぞれひっきりなしに仏像を訪れては、なにやら話しかけ、答えを得ては帰っていった。仏像はあいかわらず不思議な笑みをその顔に湛えているだけだった。