The distorted and intricate arrows ChapterⅠ 10.The aspect of S5

橋口は小杉は全くあいかわらずだ、と思った。札幌から東京のR社に入って、おそらく1週間になるはずであるのに、東京のS社のオフィスには顔も見せない。いや実際のところ、開始したとの連絡もない。取締役の外山が札幌にいることも原因のひとつであろうが、受託にはこちらも人員はじめいろいろと準備がいるから、簡単なミーティングぐらいするべきだとは思う。まさか札幌側の営業を使って走るつもりではあるまいがという考えが頭をよぎる。まあ、自分もここ数日、客先に出向いていてオフィスを留守にしていたのだし、彼に来てほしいと言わなかったのも悪いかもしれない。しかし、それならばとこちらもサポート役は手元に待機させておくことにした。新しく入社した千島は、外山の発案で1ヶ月ほど札幌に研修名目でいかせていたから、むしろ東京の方になじみが薄い。受託後を任せるにしてもコントロールが効くようにしておきたいので、この機会にここ数日は別のプロジェクトの補助にいかせている。「R社の件ははじまったのですか。」とか言っていたが。そこに外山から電話で連絡が入った。橋口君、小杉とは話をしたかね。もうそっちで調査業務に入っているはずだが。」といつもの威勢のよい声で言った。橋口は「いやまだです。こちらにはまだ連絡もありませんよ。」と答えた。外山は「あいかわらずだな。じゃあ来週月曜俺もそっちにいくから、会議しようじゃないか。セッティングは任せる。」と言った。
 月曜の午後、会議室に取締役の外山、橋口や小杉、川上、山岸や千島が集まっている。外山の「この案件はなんとしても成功させなければならない。そして受託後はアルバイトで運用することに決めている。」という言葉で始まった。いやその言葉でほぼ決まったといってよいのかもしれない。外山が、小杉に「案件の感触はどうだね。」と聞いた。小杉は「非常にうまくいっています。R社の社長もちょっとフロアに顔を出していきましたよ。注目度も高いと思います。」と少し緩んだ顔で答えた。「明日から千島君も予定通りサポート役で小杉君についていってくれ。受託後のためにもその方がよいだろう。それから川上君も実際君のいたところだから、いろいろと詳しいことと思う。よろしく頼む。」と言った。川上は少し複雑な表情をして、「分かりました。」と答えた。会議が終わった後、小杉と川岸が部屋に残った。小杉が川岸に「案件は実際うまくいっている。この分なら僕が受託後も運用できる。援護を頼むよ。」と山岸にいった。山岸は「いや。だって外山さん、その後は千島君にと言ってたでしょう。」と言った。小杉は「いやいや。僕が先方にいえばまだ分からないよ。むしろね。」と口角を横に引きながら答えた。入り口のドアの側でペットボトルのお茶を飲んでいた橋口はやれやれやはりな、と思った。彼がふと横を見ると、氷室が背中を向けて、缶コーヒーをぐいぐい飲んでいた。気づいているのかどうか、しかしその仕草はせめてそういう話は聞こえないように言ってほしい、と思っていることを示すように橋口には思えた。