shrink characteristics

転職したての私と同僚を前にして、形ばかりの新入社員向けガイダンスでその人はすこしだけ息を吸って一拍置いてこう言った。「この会社はまだ社員が少ないから、君らも先行者利得をまだ十分に享受できる。先行者利得をね。」
まるで新しく入ってくる人が「侵入者」みたいだと少し可笑しかった。もちろん、マーケットにおいて、ある領域に存在できる会社は(経済活動の結果として)限られてくるのは経済学のいう通りなのかもしれない。しかし、それを臆面もなく人材に適用してしまうあたりが急拵えのベンチャーのマネージャー的(すくなくとも彼は社内ではまだマネージャーでなかった)で悲しかった。最後に自信ありげに口の端を歪めた所など、どうだといわぬばかりで、彼にしては理論的なそれはおそらく、常日頃会社に出入りしているベンチャーキャピタルの人のこの分野のソフトウェアで早めに競争優位を築いて、マーケットを抑えてしまおうとの発破の請け売り、あるいは都合のよい拡大解釈であったと思う。(人材面にまで適用するのは思い切りすぎているのか、一般にもあまり聞かない。)だから他の奴じゃなく自分についてこい、とまでは彼でもさすがに口ではいわなかったけれど、たえず縄張りやボス争いをしているようで、ネズミ講じゃあるまいしととても後ろに並ぶ気などしなかった。しかし、その時はそういう一見強そうな刀を振り回すような人とは競争してはならないし、そればかりか競争相手と見なされるだけで危険だということまでは、自分の若さのためか気づかなかった。市場自体が伸びたり、会社が一定程度成長すれば、その妖しげな先行者利得も一個人に反映させた場合、効果としてどれほどのものか、ましてや資本を持たない身にとって、というのは配慮の範囲外であったのだろう。建物自体を大きくしたり、社会に新しい何かを提供するよりも、今の建物にいかに居座るのかを教えられたようで狭いと感じた。もっともその人も、私が競合他社の製品や価格、システムをそれなりに勉強しているのを横目に見ながら(実際席が隣だった)、「システム用語だけを覚えとけば、お客さんと盛り上がれる。意味なんてわからなくても。」なんて言うくらいだから、本当の意味でお客様に向き合って価値を提供する人ではなく、結構おめでたいだけで無意識にそんなふうに行動していただけなのかもしれない。けれど、これから成長していかなければならない、新興市場のベンチャー企業の人間にそんなことを言わせたのが日本の縮みゆく一時代の気分のようなものでなければよい、と思う。