an island~an extract from a hidden ship`s log~1.a prologue

夏の終わりの頃、まだ秋の足音がまだ少し遠い日に、宙から広い海の真っだだ中に鯨のようなかたちをした飛行船が突如、着水した。飛行中か、あるいは着水の時かさだかではないけれど、機関を損ねた模様で、副操縦士の合図で乗組員たちは皆いっせいにいくつかの小さなボートに分かれて、それぞれ近くの島影を目指すことにした。けれど天候は荒れに荒れ、時刻ももはや何時か分からない程。木の葉のように右往左往するボートから一人の船員が波間に落ち、懸命に泳ぐうちにいつしか気を失った。船員がふと気がつくとある島の浅瀬に打ち上げられていたのが、飛行船はもちろんのことボートも全く目にすることはできなかった。砂浜はどこまでも続くようでもあり、ひとっこひとりそこにはいなかった。空はもはや嵐の痕跡をとどめないほど澄んでいたけれど、日は既に西側の海に溶けかかっており、船員は浜辺で一夜を明かすことにした。やがて空から月の光がやわらかく波間に漂いはじめた。