The little garden in a village around space.4.

キプロスと老人はもとの部屋にもどりましたが、老人は席には座らずに、とりたての果物や野菜がつまった駕籠を抱えて、奥の部屋にゆっくりと、それでも同じくらいのテンポと歩幅で歩いていきました。空中の部屋の外には、いつのまにかうっすらと雪を纏った地表の上空に、月が白い輝きを放ち、遠くまで重なる雲もまたふわふわと輪郭のやわらかな姿を見せていました。月の海に浮かぶ島のようなこの白い雲の間を、これまた白いクジラのような形をした飛行船が、何艘もゆっくりと空を滑るように漂っていました。この輪郭の丸い飛行船からは、銀色と白があいまったような光が、冬の澄んだ冷気の中で、チカリチカリとどこへともなく発せられ、あるいは吸い込まれていくようです。光は瞬く間にキプロスの視線の端から目の耳の中央を通り抜け、また視線の端へ、彗星の尾のようにいきかってみせるのでした。キプロスが藍色と白色の宇宙の優しい風景を瞳にうつして、もの思いにふけっていると、奥の部屋から、老人がビーフシチューをもったすこし深みのある白い陶器の皿二つとろうそくを灯した銀の皿をお盆に載せてもどってきました。白い皿のなかのシチューは、おいしそうな匂いをして、鍋の中の記憶をまだ残しているかのように、ぐつぐつと音をたてていました。老人は、テーブルに皿を置き、傍らの竹製の器械の螺子をそっと巻いて、賑やかで複雑の響きのする音楽をかけると、「さあ寛いで召し上がれ。」といってキプロスに椅子にかけるようにいいました。老人は、「私達大きな耳をもつ者は、感覚を研ぎ澄ますことはできるけれど、そのためには食事も大切よ。適量で温かい食事はむしろ集中を高めるわ。それ自体では拡散していきがちな意識を繋ぎとめるのには光だけでなく、食事も必要なの。あの飛行船のお腹についている錨のようにね。」と言いました。壁の古時計の映り込む水盆には「小休止。(”Merry Christmas!”)。」という文字が霞んでいました。