The little garden in a village around space.5.

老人とキプロスの静かな、けれど和やかな夕食は、ゆっくりと進んでいきました。老人やキプロスが、微笑したり、頷いたりするたび、部屋のいろいろな場所のランプに照らされた柔らかな影はフルフルと動き、しばらくするとまたふんわりと優しいあたらしい形をつくるようです。食後のコーヒーを飲みながら、老人は窓の外を見やって、「夜が満ちてきたようね。」とキプロスにいいました。実際、キプロスの緑色の瞳にも、夜はますます深みをましていくように映ります。キプロスは、「夜は外界との隔絶ではないのですね。」と言いました。老人は、「すくなくともわたしは、夜ほど世界との調和を感じるときはないわ。それは、昼のあいだ、各自の固体に蓄えられた想いやうねりのようなものが、夜の帷にそっと融けだして、夜をさらに深くするように感じられるもの。」と言いました。キプロスは「なるほどそう理解するものなのかもしれません。今日はどんなイメージが、この夜にそっと融けだしたのでしょうね。」と、やはり窓の外を見やりながら、いいました。老人は、「目を凝らしてみるか、あるいは耳を澄ましてみるよりほかないわね。それに全ての気持ちが融けだすわけではないのかもしれないわね。心のコップから溢れたものは確かだとしても。」といいました。キプロスが「どんなものにも臨界のようなものが備わっているのでしょう。」というと、老人も微笑して、「大切なことは、夜の空気を眠っているうちに呼吸して、いつのまにか、ひとはみな朝にはすこし世の中の気分を共有してしまっていることなのかもしれないわね。」と言いました。二人が話す間にも、夜は玲瓏な光をはなつ月や星のほうまでその手をひろげて、漆黒の度合いをますます深めつつあるようです。老人は、「眠りにつく時分ね。朝までほんの少し。」といいました。窓辺には一輪の花が、夜と部屋の間にあいかわらずそっと咲いていました。