The simple tales to hold the earth by it's tale. 18.a strange leather bag.

昔々、未知の南の島を目指した船団が、小高い丘と坂の多い港町に寄港したあと、暁に遙か遠く南西に向けて、雪の降る中で針路をとり、今日も尚秋から春にかけて大陸沿いにひんやりと冷たく吹く風にのって、航海していた頃のことです。凛とした藍色の夜空に明るい月が丸くはずむように浮かび、雲が白くやわらかくにじむ中に、帚星が尾をひいたその瞬間、この船団の右舷の方向に、絵画のような漆黒の海面を白鯨の群れが裕然と泳ぐのを目撃したと航海記録に残っている前後のお話です。
その頃は、魔法が今よりもずっと日常的に使われており、妖精たちや動物たちも、はたして自分たちも魔法をかけることができるかどうかということさえ、あまり気にもとめない時代であったそうです。さて、この妖精の国の一つで、森の妖精の加護を受けた、伝説の秘宝の革袋というものが、いつの頃からか存在したということです。その革袋は、海羊の革で小ぎれいに作られていて、街の仕立て屋のショウウィンドウの上着の側になにげなくおかれているような袋であって、一見しただけでは魔法の品には見えないという、ごくまっとうな魔法の品のひとつであったようです。この革袋は、妖精にとってはとても感じのよい見た目と肌触りであって、それを見た妖精は、どんな妖精でも、評価も反論もしがたい、えもいわれぬ魔力を感じるようです。その革袋は夜に森に置いておくと、なんでも世の中の風を吸うことができ、革袋の七分程のところにある紐をきゅっとむすんで、ある呪文を唱えてそっと撫でで振ると、智恵を生むことができると妖精たちの中ではひそかに伝承されていましたが、その呪文はいつしか都会では忘れられて、分からなくなっていました。そんなことですから、この袋は中身を容易に見分けることが難しく、運びやすいので、妖精によって袋に詰めるものはものは貴重な品、高価な品もあれば、危険な魔法の品もあるという具合で、袋のどこか茫漠とした趣き同様、じつに都合のよい感じで扱われていたのでした。
以降近日掲載。
 笛と竪琴、バイオリンを抱えた楽団が、箱型の馬車で千里万里を旅した後、春の日、森と水の豊富な東の国に皆で伝えたとのことです。やがて、お話はみな東の言葉で理解されて、小高い丘の銀色の琴奏者の郷里で、柿と夏みかんの表紙と四季の彩り豊かな背表紙の平たい空色の絵本となりました。絵本はある図書館の智恵の書棚に、真心の鏡を前にして置かれたということです。そして、夏の夕方、遠くで鳴り響く鐘の音を聞きながら、銀色のさらや燭台の置かれた台のそばに有る明るい色のソファーで、親たちが子供達の愛らしい手を優しく握って、安らかな呼吸であやしながら、読むようになったとのことです。