The little garden in a village around space 8.

キプロスは、「空を飛ぶ方法」という題名の絵画をしばらく眺めていました。老人は「まだなにか考えているようね。」といって、だまってキプロスの藍色のカップに二杯目のコーヒーをなみなみと注ぎました。キプロスはひとこと礼をいって、スプーンひとさじ分の砂糖とたっぷりのミルクを加えてゆっくりかきまぜると、おもむろに藍色のカップを口に近づけました。コーヒーの香りがフワッと漂い、キプロスはほっと一息つきました。キプロスは、「先程、東に向かう船団を見ていました。」と言いました。老人はすこし遠い目をして、「この惑星にとても巨大な空白ができてから少し経ちましたね。」と言いました。キプロスには老人の微かにかすれたその声の調子が、あたりまえの静寂よりもずっとシンとした重みを持つように感じられました。キプロスは「この世界にできた空白は、きっとなにかで満たされようとすることでしょうね。」と言いました。老人は、「どんな経緯でできたにせよ、空白はそれ自体で引力をもつのかもしれません。その空白が温かなもので満たされることこそ人々のせめての願いであるのでしょう。そして、その輪のなかにこそ新しい森が育つのだと思いたいものですね。」と言いました。キプロスは「そのために何が必要でしょうか。」と尋ねました。老人は『混迷の時にはとくに、人々の思いを自然と注げる「ポット」のような器が必要であるのでしょう。』と言いました。キプロスは『今を考えれば、その「ポット」はやがて溢れるかもしれません。』と言いました。老人は、「ポットに一度込められたものは、たとえ溢れたとしても形の記憶を残すと言います。それに当初は枠が中身を規定としても、中身は世界の必要に応えるなら、今度は外側を形づくると言います。忘れてはならないことは、この世界に実際に存在するものは、常に実体化するよりずっと多くの思いや可能性のようなものが存在するということではないかしら。」と優しく言いました。キプロスは、「なるほど」と頷いて、「今、用意されているポットはこれからのために果たして十分でしょうか。」と言いました。老人は「それは分からないわ。」と言いました。しばらく二人は黙って、また窓の外側の風景に目を向けました。キプロスは、空の向こうにとても静かに宙空を掴み、宙空の一部を支えるようにふわりと浮く飛行船を思い描いていました。