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A fruit tree at the base of the mountain.10.

あらあらしく不規則な風の音色がすこしずつちいさくなり、やがてほとんど聞こえなくなると、動物たちは、みな洞穴から、おそるおそる顔をだしては、一人一人目を合わせてお互いの無事を確認しあい、世界の存在を実感するのでした。森の木々も枝や葉をゆっくりと揺らしては、どこかいたんでいないか、枯れていないかと確認しています。森の生き物たちにとって世界はおもったよりも頑丈だとはいえ、やはり「こがらし」の影響であるのか、普段の風景の中に灰色の景色がどことなく埋め込まれているようなのです。それでもリスのエリザベスは、いつもならこのあたりの野原では見かけないえもいわれぬ木の実を探し出して、眺めたり、智恵の輪を扱うみたいに調べたり、かじったりしています。乱暴な類いのものであっても、風であるのなら、なにかを運んでくるのです。まもなく動物たちは、菱形をした号令の笛をふきあっては、洞窟に造られた家を修繕したり、強風から家屋を保つ風の扉と壁を直したり、泉の真水を汲みにいったり、食料の運び込みを始めました。今回の強風で部屋の屋根を飛ばされたコマドリボージャンは、竹製の箱を逆さにかぶって、新しい住処を探しているようです。動物たちは、あらしはあらしのあとにやってくることを知っているのです。森の書記官の語るところでは、たとえ雨が降ってきたとしても、傘と屋根は区別されなければならないということだそうです。そして、大きく見える傘よりはむしろ、小さな屋根を集めた方がよいともいいます。書記官は理由を問われて、長い羽衣を翻し眉宇をきゅっとして、森の生き物のなかには、すぐおおきくなっちゃうのがいるからさ、なんていってます。大きくて丈夫な住宅がよいことは事実かもしれませんけれど。藍色の宙空と月あかりの夕べ、空と地平のさかいめは白と紫にきれいに浮かび上がっていきます。そして、山の手から湖の入江や川岸をめぐりめぐって、涼しい風がふいてきました。三本マストの帆船が一艘、橋の方角へゆっくりと滑るように動いていきます。風のとおりみちでは灰色から、彩りある光景にもどっていくようです。葡萄や梨、柿で賑わう秋の季節はきっともうすぐそこです。