The little garden in a village around space.3.

「今日はここに泊まっていきなさいな。」と老人はキプロスにいうと、庭の白い柱の一つにそっと触れました。すると、庭の上の方から白い半分くらい透明な屋根がひらいて丸く降りてきて、庭全体を包み込み、あっという間に空中の庭は、ひとつの中くらいの部屋にかわっていました。
部屋の壁にあたる部分にくっついているランプに照らされて、部屋の中は橙色の空気に包まれていきました。机や椅子、壁の古時計の影もあくまで柔らかく大理石の床に映り、その輪郭の部分だけがわずかにちらちらと揺らいでいるようです。すこし驚いているキプロスを椅子に残して、「シチューを温めてくるわ。」と言うと、老人は小さな橋を渡って、奥の小部屋の方に歩いて行きました。小部屋からはまもなく、温められたビーフシチューの香りがキプロスの部屋の方にも漂ってきました。キプロスは、椅子に座ったまま天井をぼんやりと眺めていましたが、半透明の壁の一角に小さな階段がついていて、別の小さな部屋があることに気づきました。壁の向こう側の小さな部屋には、どうやら野菜や果物が実っているようです。食事用の白いテーブルクロスをもった老人が、奥から戻ってきたので、キプロスは「あの小部屋は何ですか。」と尋ねました。老人は、それまでのゆっくりした動きとは反対に、てきぱきとテーブルクロスをかぶせてテーブルを整えると、「みての通り畑ですよ。」と言いました。老人は「もっと近くで見た方がよいわね。」と言うと、キプロスを手招きして、透明な小部屋を開けました。老人は「宇宙の今日の音の具合はどうかしら。」というと、壁に掛かったチューリップの形をした耳当てようなものを右耳にくっつけて、すこし目を瞑りました。「よいようね。たいていは自然に任せるべきことでしょうけれど、あまりに歪んだ音はあのステレオで優しく音楽をかけて、部屋の音を保つのがよい作物がとれるコツよ。」と言いました。キプロスは、「どんな音楽がいいですか。」と言うと、「この菜園の果物や野菜にはなるべく複雑な音色がよいようね。」と言いました。老人は脇に抱えた愛らしい小さな駕籠にいくつかの果物を入れながら、「作物は土からだけとれるわけではないの。空の光や音もとても影響しているわ。この部屋の野菜や果物は皆そのしるしのようなものね。」と言いました。畑の中には、これから植えられる樹木の苗もお盆にまとめられて、表面のちょっとデコボコとなみうった煉瓦造りのたなの上に置かれています。キプロスは、「これは家庭菜園ですか。」と尋ねました。老人は、「個人の趣味で作っているのだけれど、注文を受けて作るものもあるわ。」と言いました。蜜柑やいちご、メロンもとても美しく実っていますが、なかには奇妙な形をしたカボチャやかぶらも転がっています。キプロスは「このへんてこなものはどうするのですか。」と尋ねると、老人は微笑して、「まずは部屋に飾ってよく眺めるの。お客様にも見せるわ。どの野菜も果物も一様に宙から成ったものにはちがいないから。」と言いました。