Long time no see but little invisible 6.a mirror image house.

昔々まだ空と地の境が遠く曖昧だった頃、鐘の音を美しく響かせる尖塔が空高くそびえるこの街から、山脈を幾つか越え、海を渡ったあたりのお話です。
ある男が、それまで住んでいた田舎の自分の家を見て、こう呟きました。「この家は嫌だ。自分が造るのであれば、こういう家であってはならない」。男は都会の他の街へと移ることにしました。男はその街の端にある空き地に着くと、早速家を造る準備を始めました。そこに街の人が通りかかって、「どんなお家を造るのですか。」と尋ねると、男は「決まっているじゃないですか。田舎の家とはとても似つかない、逆によい家を造るのです。」と言いました。街の人が「私は設計の仕事もしているのです。ちょっとお手伝いをしましょうか。」と言うと、男は「私は人に迷惑をかけるつもりは全くない。手を出さないでください。」と答えました。街の人は「そうですか。」と行って、通り過ぎていきました。そこに別の街の人がやってきていいました。「私は大工の仕事をしているのです。お手伝いしましょうか。」。男は「私は人に迷惑をかけるつもりはない。手を出さないでください。」と答えました。その人も「そうですか。」と行って通り過ぎていきました。男は勇んで、家を造り始めました。家の向きは田舎の家の北向きのと真逆の南に、戸口も右開きから左に、家の色合いも黒塗りから白へと一生懸命造りあげていきました。しばらくすると、それなりに家の外観が整ってきました。そこに昔からの知人がやって来て、家の庭にある池に映る新しい家を見て言いました。「前の家とそっくりですね。少し小振りではありますけれど。」。男は出来上がりつつある家をしげしげと眺めて、息を吐き肩を落とすと、造りかけの家をぺちゃんこに壊すと、家造りの秘訣を探す旅にでました。あの寛大な趣のある湖の水の最初の一滴が、空から零れて森のすらりとした木の葉のひとつをそっと揺らしたのはそれからまもなくのことだということです。やがて雫は清流となり、丁寧に谷間を縫って、大陸の中央にある火山が熱く爆ぜた後のカルデラに注いで湖になったと伝わっています。その小さなとても深い湖は、広大な宇宙のただ中にあって、寛大な趣で微笑みながら空の月をみなもに青く受けて、天の恵みを顕しているそうです。そして今日も尚その澄んだ大きな瞳で、夏には空高く昇る黄色い太陽を映し、秋には山々の様々な色彩と感触の木の葉を思慮深く受け、冬には雪と氷の紋様を綾なして、春には森の生えそろう青葉とそれを支える木の根の揺り籠となっていると聞こえています。