The simple tales to hold the earth by its tail.10.a strange stew buffet.

昔々、遙か西の国の港を巡り、やがて未知の南の国を目指したという船団が、坂の多い港町に寄港したあと、暁に遙か遠くの洋上へ向けて帆をはり、今日も尚秋から春にかけて大陸沿いにひんやりと冷たく吹く風にのってしばらく航海していた頃のこと、丸くはずんだような月が空に浮かんだ明るい夜に、帚星が尾をひいたその時、白鯨の群れと遭遇したと航海記録に残っている前後のお話です。
ある港町のにぎやかな市場の近くの十字路にはお店がたくさんならんでいました。道では度の大道芸の一団が、ベージュのオカリナの柔らかい音色に合わせて、ゆったりと店の宣伝をしています。立ち並ぶお店の中の一つ、たくさんの品物をおいたある時雑貨店が、改装して白いコンクリート造りの建物に、紅く秋の彩りをした楓をした外観にかわり、店内の品揃えも前よりもやや少なくなったようです。雑貨店の店内では長いコートを着た店員達がきびきびと仕事をしているのが、窓越しにも見えます。そして、港に立ち寄る船員さんや、市場の人々、街の人々で大賑わい。十字路付近の商店街のお店では、「なんでもあの店では、品物を減らしているらしい。だから売れているそうだ。」「いやいやあれはどうにかして品物を選んでいるからだ。」「いやいや君、あのすっきりした外観こそが商売の思想を示しているからだ。」「あの店はなんでもセレクトショップというものであるそうだ。」と話題になったそうです。さて雑貨店の繁盛を脇で垣間見る隣のビーフシチュー屋の店主の男、「味ではけっして負けないはずだ。いや勝っている。よし我が店も減らすこととする。」というわけで、翌日から仕込みを変更しました。シチュー屋の店主は、「よし、まず人参を減らすこととする。」と言って仕込みました。店主は「ああさっぱりした」と言って、お客さんを待ちました。やがての市場のなじみお客さんが馬車で乗りつけて、いつも通り、飲み物とシチューを注文しました。お客さんはシチューを食べはじめてしばらくして、「そういえば、人参が入ってないですな。ディスプレイではツヤのある赤い人参があるのに。」と言うと、店主の男は「なに減らしてやったのだ。名前が良くない気がしてね。といっても問題ない。なにより重要なのは、あの雑貨店のように減らすことであるからね。その味をたっぷりと味わってくれたまえ。あなた市場で仕事しているのだから、効率ということぐらいご存知であろう。」と答えました。しばらくしてもお客さんの人数はそうかわりません。店主は、「ふむ効果がないようだ。やはり減らし足りないのであろう。徹底しないのがこの店のよくないところだ。」といって、ジャガイモを抜きました。そのうちそれではたりず、牛肉、玉葱を減らしました。お客さんは増えるどころか反対に少しずつ減っていくようです。店主は、店を閉めたあと、黙々と考え込んで、やがて手を叩いて店員に言いました。「減らすことは間違っていない。問題は具材を減らしてので、色合いが落ちているからだ。」。店員は「どうしましょうか。」と言うと、店主の男は、「決まっているじゃないか。いまは自然志向の時代だそうだ。カカオの粉でも入れてみよう。それがいい。」と言いました。翌日も、その翌週も、カカオのたっぷり入ったビーフシチューを食べるお客さんは少しずつ、けれど着実に減っていきました。しばらくたって、隣の雑貨店は益々繁盛し、ビーフシチュー店は閑散として、ひとっこひとりいません。店員が、「雑貨店でお客さんがはいりそうな、看板でも見つけてきましょうか。」というと、店主の男は怒り出していいました。「自然の味が少ないに違いない。土塊でもいれてやれ。」
笛と竪琴、バイオリンを抱えた吟遊詩人の一団がこの話を耳にし、箱型の馬車をひく馬を駆り、皆で千里万里を旅した後、森と水の豊富な東の国に伝えたそうです。やがて、数々のお話はみな、柿と夏みかんの表紙の平たい絵本になって、親たちが暖炉の前で子供の愛らしい手を握って優しくあやしながら、安らかな呼吸のなかで、読みきかせるようになったということです。




閑話休題;ブログの更新が滞ってしまいましたが、今週から標準運行に戻ります。