2009-01-01から1年間の記事一覧
「やはり宙を奔るようにはいかないものだ。」と船員は呟いた。まず向かうべき里はもう見えているので、気分的にはだいぶ楽であったけれど、島の重力によるものか、それとも遭難後まだ体力が回復していないためか彼の歩みは思いのほかゆっくりしたものになっ…
あくる朝、船員は目覚めるとまずはこの島の様子を見てみなければと近くにある小高い丘の方に向かって歩き出した。少し進むと古びた銃をもっている猟師のような恰好の男と出会った。「あの、この近くにたくさん船の寄るような港はありますか。」と船員は尋ね…
夏の終わりの頃、まだ秋の足音がまだ少し遠い日に、宙から広い海の真っだだ中に鯨のようなかたちをした飛行船が突如、着水した。飛行中か、あるいは着水の時かさだかではないけれど、機関を損ねた模様で、副操縦士の合図で乗組員たちは皆いっせいにいくつか…
ただいまコーチングをするにあたって、本当にきれいな声はよりきれいに、人の小さな声や呟きやそれ以外の音声もよく聞きとれる音質のよい電話機を探しているところです。(初期費用がそれほどたくさんかかるということはないのですけれど、資金面でも当面別…
「感動した!」という言葉はある時をさかいにしてとてもたくさん使われるようになったのではないか、と思う。2001年5月、大相撲の夏場所千秋楽で前日の負傷を押して勝利し、優勝した貴乃花に対して、時の首相の小泉純一郎氏が「いたみに耐えてよくがんばった…
7月22日の皆既日食、さいたま市ではよく観ることができなかったので、テレビで観ました。本来の球体の太陽が、三日月型になったりして、とても神秘的だなと私も思いました。普段の生活や思考の時間軸や空間軸が揺さぶられるのを感じる一方、地球や月などの範…
私はいわゆる無音の場で黙って座っていることがあまり好きでない。室内であってもなんらかの話し声が聞こえたり、音楽が流れている方がよほどリラックスできるし、集中できる。 無音の空間はメリハリをつけにくいと同時に、音声が存在しない部分の空白をいつ…
子供の頃から映画やテレビドラマを見るととても落ち着いた気分になることがある。それはとても密やかな感覚で言語化できたのは、つい最近のことかもしれない。二十歳くらいまでは現実と虚構はあくまで対の概念であって、何かの物事に対する真実と嘘もやはり…
転職したての私と同僚を前にして、形ばかりの新入社員向けガイダンスでその人はすこしだけ息を吸って一拍置いてこう言った。「この会社はまだ社員が少ないから、君らも先行者利得をまだ十分に享受できる。先行者利得をね。」 まるで新しく入ってくる人が「侵…
五、六歳の頃、祖母と買い物がてら、散歩をするのがとても好きだった。あぷさんと祖母は呼ぶ、屋号に由来したものか不思議な名前の魚屋から始まって、肉屋と八百屋をまわって帰る、今確認すれば一キロに満たない道のりがおきまりのコースだった。祖母はあま…
用事の途中、竹芝桟橋に久しぶりに寄りました。ここから島行きのフェリーに乗ったことをふと思い出し、しばし遠足気分。山の恵みもと思いつつ、やはり趣向は海に沿う様子。写真は、桟橋からあえて陸側の方角にすこし歩いて(写真の一部で遠近法がずれているた…
マイケル・ジャクソンさん死去のニュース、わたしも一視聴者として驚きをもって見聞きしました。 日本のニュースやCNNなどのポッドキャストも何度も伝えるなど、存在の大きさに改めて感じ入りました。1970年代も後半の生まれの私にとっては、スターになる過…
只今、コーチングに関するシンプルなHP(あるいはブログ)の開示も別途検討しております。もちろんこのブログもすこし不思議な形式のままおっとりと継続します。
The distorted and intricate arrows 後書きとして 新卒で入社した会社で、年度終わりの月に納会があった折り、還暦を過ぎたT取締役に○○屋のサンドウィッチを買ってこいと言われて、数万円を渡されて百貨店の地下まで使いにいった。祖母と暮らした期間はす…
目の前にすわる男、小杉の様子が心に強い警笛を鳴らす。「なにかにかかっているのじゃないか。」と千島は思った。策士を自認する人ほど自分の考えの及ばない部分からの策に罹りやすいものはない、とも千島は思う。一方ここ数日小杉の側にいてすることを手伝…
橋口は小杉は全くあいかわらずだ、と思った。札幌から東京のR社に入って、おそらく1週間になるはずであるのに、東京のS社のオフィスには顔も見せない。いや実際のところ、開始したとの連絡もない。取締役の外山が札幌にいることも原因のひとつであろうが、…
中越は努めて表情を抑えて、S社はやはりやる気だ、と思った。すこし離れた所に小杉が自信に満ちた表情をして坐っている。昨日、S社の営業の山岸と小杉が現れて、山岸が「よろしくお願いいたします。」と頭をさげていった。小杉はすこし胸を張って「お役にた…
あの人は何をしに来たのだろう、と昼休み外で皆で話した。昨日フロアに突然現れたその人は、見慣れない営業のような人と中越さんをまじえてほんの少しの間、フロアにある長い机や円いテーブルの置かれたワークスペースで話をした後、私達を見通すことができ…
川上は席に戻ると横の年上の女性社員からR社人事の中越さんから電話があった、と伝えられた。彼は20代後半、R社の人事からS社に出向してきて2年ほどが経つ。といってもR社の人事業務の主要な部分は札幌の人事部で行われており、彼は東京の庶務的な業務を行っ…
その頃R社人事マネージャの中越は黙然と席に坐って連絡を待っていた。側を行き交う人の声が不思議とぼんやりと聞こえる。今回の案件は正直難しい、と彼は思った。その範囲も対象も、人員を実際どうするのかもいまだはっきりはしていない。そして彼自身内示は…
S社営業部長の橋口は、取締役の外山に部屋に突然呼ばれた。彼は30代半ばを過ぎたばかり。中背であったが、少し太り気味であるので背中を遠くからみればなにやら打たれ強そうな印象を周囲に与えている。彼は少し緊張して部屋に足を運んだが、部屋のドアは既に…
小杉は札幌の市内にある5階の彼の部署の机のそばに座り、受話器とっていた。一般的なオフィスビルの部屋としては狭く、小中学校の教室を半分に割った程のこの空間は、内部からの情報の漏洩と外部からの侵入を防ぐために、二重の仕切りと分厚い壁で廊下や他の…
S社取締役外山はその頃、心の中で快哉を叫んでいた。受話器を握る左手も、椅子の肘掛けを持つ右手も熱い。R社の人事業務受託についてR社取締役の平原から、プロジェクト開始の連絡を受けたのだ。これがうまくいけばR社の経理業務その他のスタッフ業務や、R…
R社人事担当取締役の平原は、迷っていた。人事畑で長年経験を積んできただけに、年相応の陰影が刻み込まれたその顔には、もはや内面の揺れやその智慧さえ表情にそのまま映されることのないことを自分で知っている。人間にとって皺や皮膚の厚みも年輪であり、…
午後 浦和街あるき つつじの小径、あるいは壁。携帯カメラにて。
〜The devo 後書きのかわりに〜 学生時代、ヨーロッパにいった時だけ「何人かのハーフですか。」と聞かれることが多く、なにかの独特の社交辞令の類かとも思いながら、同時に自分の中でなにやら少しうっかり嬉しく感じることが、20世紀末まで暗黙に日本に漂…
空気がわずかに爆ぜている、と彼は思った。しかしなぜこの段階でここまで、と彼は自問するのだった。ここは東京に本社を置くIT関連企業Qグループの一企業であるR社が入る、優雅といってよい姿で海の側に立つ15階立てのビルの10階。この海のよく見えるフロア…
男は仏像が遠くなるのを見届けると、さっそく広場に出向き、「あの仏像は我の賢い説得によって秘儀を我に伝えると、次なる悟りの場所へ自らの足で粛々と旅だっていった。」と宣言した。陰で腹心が「祟りがありますまいか。」と口々に心配すると、男は小声で…
仏像が古寺に封じられた後も、仏像の所には入れ替わり村人がやってきて、何か祈ったり、お供え物を置いたりしていた。なかには広場の井戸の側で仏像の扱いが不届きであり、祟りがあるのではないかというものもいたが、まとめ役の男はじめ何人かの強者が「こ…
何日か経ったある日、陽もだいぶあがった頃、評判や噂を聞きつけて、別の何人かの男たちがやってきた。その一人が仏像を見るなり、「あの男どもに荷担するとはじつにけしからん仏像である。」と蹴りを入れた。しかし、仏像はとても堅かったので、男は脚の骨…