a beaver build up a little public garden.~ in the children`s hour with cherry blossoms.〜

エアフィールド・スミス・ジュニアは朝起きると、家の近くの桜を見に行きました。桜の前には笛を大事そうに背中のリュックにしまっているリスのガルシヤがもう来ていて、左側に数歩トコトコと歩くと、今度は右側にトコトコ戻り、桜を愛らしく見上げていました。昨夜は春の嵐。昨日まで枝はもちろん幹まで覆うほど咲いていた桜の花はだいぶ散って、遠く丘の麓にある教会の白い屋根が桜の向こう側に透けて見えていました。スミスは、ガルシヤのそばまでいって、肩口から桜を覗き込むと「あの桜の花はどこにいってしまったのだろうね。」と言いました。ガルシヤは小首を傾げて、今まで手に抱えていたクルミを今度は大事そうに胸元の大きなポケットにしまうと、「きっと地面に積もっているのだと思う。だってあんなにたくさん落ちているもの。」と言いました。桜の花びらは公園の土の上に落ちてはいても、朝の明るい光を浴びてきれいにやんわりと輝いていました。スミスも「きっとそうだね。地面で咲いているみたいにきれいだものね。」と言いました。ガルシヤは「桜の花びらを集めて、とても大きなカーテンを作ろうよ。そうすれば桜の時季を過ぎても、木と木のあいだにかけるだけで、春になれるよ。」と言いました。スミスも「そうだね。桜の花びらも、緑色になっていく桜の木もその方が嬉しいかもしれないね。」と言いました。二人は公園の隅っこに架けられていた紫色のハンモックを持ってきて、一生懸命桜の花びらを集めだしました。やがて太陽はだいぶ空高く上がり、しばらくたつと教会の鐘と公園の時計台の鳩がともにお昼の合図を始めました。二人はハンモックをとても真っ直ぐな視線でのぞきこみました。菱形のハンモックの中はまだとても余裕があるようです。ガルシヤは小首を傾げて「木の下に積もっている花びらはもうほとんど集めたのに、これだけでは昨日咲いていた程の花びらの数にはとても足りないのじゃないかな。」と言いました。スミスは「そうだね。昨日の強い風で飛ばされたのかもしれないね。」と言いました。ガルシヤは、「残念だね。とってもきれいなのにね。でもこの公園じゅうに積もっている桜の花びらを僕たちでできるだけ集めようよ。」と言いました。スミスも「そうだね。それにしても今日はとてもぽかぽかして暖かい日だね。公園の中央の時計台もなんだか嬉しそうだね。」と言いました。二人はまた一生懸命花びらを集めました。やがて陽は西側の丘の方にだいぶ傾いた頃、襟元にラベンダー色のスカーフを巻いたフクロウのナターシャおばあちゃんが通りかかって、「そろそろ夕御飯の時刻ですよ。二人ともお花摘みでもしているのかな。」と言いました。二人はあっと空を見上げて、今度はナターシャの方を見ると、「桜の花びらを集めてカーテンを作ろうとしたのだけれど、なかなか集まらないんです。」と言いました。ナターシャは優しく微笑んで、「二人によいことを教えてあげましょうね。桜の花びらは、みな春の空にそっと溶けるのです。見てご覧。」と言いました。そこには昨日よりも、ずっと赤く赤く輝く丘を巡る夕暮れの景色が横たわっていました。二人は丘の端っこから、ハンモックに集めた桜の花びらをまくことにしました。ガルシヤとスミスの小さな指の間から零れる桜の花びらは春のやわらかな風に乗って丘の麓へと降り注いでいきました。ナターシャは「二人でこれだけ集めたのだから、来年の桜はもっときれいに咲くことでしょうね。」と言って微笑みました。辺りの野原には巡る桜の優しい香りの中を、教会の鐘がやはりまるくて寛い余韻をともなってやわらかく鳴り響いていました。